敷金の返還請求

敷金の返還請求

賃貸借契約における敷金返還請求権の発生時期と承継

建物の賃貸借契約が結ばれるとき、通常「敷金」と呼ばれる一定額の金銭が賃貸人に差し入れられます。

この「敷金」は、賃料の支払いがなされなかったり、明け渡しがなされなかった場合などに、その滞納賃料や損害金などの支払いに充当され、残額があれば賃借人に返還されるというものです。

それでは、この敷金の返還請求権はいつ発生するのでしょうか。 この点にいて、判例は、明け渡しがなされて初めての滞納賃料や損害金の額が確定できること、敷金特約は賃貸人保護のために賃借物明け渡し時までの賃借人の債務を担保する目的で締結されるものであることから、賃貸借契約の期間が終了しただけではその請求権は発生せず、賃借人が賃貸人に対して賃借建物を明け渡した時に発生するとしています。 したがって、賃貸借契約が終了しても、賃借人は賃貸人に対して敷金返還請求権があることを理由として、同時履行の抗弁権(民法533条)や留置権(民法295条)を主張して敷金が返還されるまでその賃借建物の返還を拒むことができないということになります。まずは、賃借建物を明け渡し、その後に敷金の返還を請求することになります。

次に、賃貸人や賃借人が変更した場合に、その敷金返還債務や敷金返還請求権が新賃貸人や新賃借人に承継されるかについてご説明します。

賃借人の地位が譲渡された場合

賃借人Aが、賃貸人甲の承諾を得て、賃借権をBに譲渡した場合、旧賃借人Aが賃貸人甲に対して有していた敷金の返還請求権は、原則としてBに承継されないとするのが、判例です(最判昭和53年12月22日)。

したがって、賃借権の譲渡について承諾した賃貸人甲は、新賃借人Bとの間で、新たに敷金特約を締結して敷金の交付を受けておくことが、賃料支払債務などの担保として有益であると考えられます。

賃貸人の地位が譲渡された場合

賃貸建物が賃貸人甲から乙に譲渡された場合、原則として、賃貸人の地位は、甲から乙に承継されます。 この場合、賃借人Aが旧賃貸人甲に差し入れていた敷金は、Aの未払賃料があればこれに当然充当され、残額についてその権利義務関係が新賃貸人乙に承継されるとされています(最高裁昭和44年7月17日)。

したがって、賃貸借契約が終了して賃借人Aが目的建物を明け渡した場合には、賃借人Aは、旧賃貸人甲ではなく、新賃貸人乙に対して敷金の返還を請求することになります。