通行地役権

通行地役権

今まで長年隣人の土地を通行していたのに、ある日突然、隣人から通行を禁止されてしまったら、隣人に対してどのような主張ができるでしょうか。このような場合に隣地を通行する権利の一つとして、囲繞地通行権を以前ご紹介したことがありますが、今回は通行地役権という権利についてご紹介します。

地役権とは、他人の土地を自己の土地の便益のために利用するための権利です。「通行地役権」はこの地役権の一種で、他人の土地を自分の土地のため、通行することを目的とする権利のことを言います。他人の土地を通行できる権利であるという点において「囲繞地通行権」と共通点がありますが、通行地役権の場合には当事者の合意によって通行権を設定できますので、袋地である必要はありませんし、自由に通行する場所や方法を決めることができますので、囲繞地通行権よりも便利な権利と言えます。

ただし通行地役権の場合には、袋地であれば当然に認められる囲繞地通行権と異なり、原則として土地の持ち主との間で通行権を設定する合意(契約)をしなくてはなりません。

もっとも、隣地の通行がトラブルになるのは近隣者同士の間柄であるため、取り決めのないまま長期にわたって通行しているケースの方が多く、通行地役権という形で明確な合意があるのは例外的だと思います。そこで、このように明確な合意がない場合であっても、当事者間で通行地役権の設定について意思の合致があったとされる場合には、黙示の合意があったとして通行地役権が認められることが多いのです。

この点、裁判例では、黙示の合意による通行地役権の成立要件として、「黙示の契約を認めるためには通行の事実があり、通行地の所有者がこれを黙認しているだけでは足りず、さらに、所有者が通行地役権または通行権を設定し法律上の義務を負担することが客観的に見ても合理的があると考えられるような特別な事情が必要である」(東京高裁昭和49年1月23日判決)とされており、単に土地の所有者が通行を黙認していただけでは足りないとされています。これは、土地の通行自体が、特に明確な取り決めがないまま土地所有者の黙認や好意という形で認められている場合が多く、通行地役権という法的な義務を土地所有者に負わせるのは過酷であると考えられているためです。そして、この「特別な事情」の判断にあたっては、地役権を設定する必要性・使用状況・地役権設定の経緯などを総合考慮して判断されることになります。

通行地役権はこのように当事者間の合意によって成立するのが原則ですが、時効によっても成立します。ただし、時効による地役権の取得のためには、継続的に行使され、かつ外形上認識することができることが必要です(民法283条)。その上、「継続的」と言えるためには他人所有の土地の上に通路を開設することを要し、その開設は自分の土地のために通行する者によってなされることを要する(最高裁昭和30年12月26日判決)ため、時効によって通行地役権が認められるためには、これらの要件を満たすことが必要となります。