賃借人が破産したら

賃借人が破産したら

マンションやアパートのオーナーさんから、賃借人が破産をしたらしい、どのようにしたらいいのか。というご相談を受けることがあります。そこで、今回は、不動産の賃借人が破産をした場合の賃貸人としてどうすればよいかという点について、説明したいと思います。

契約の解除について

まず、賃借人が破産をしたからといって、契約が当然に解除になって明け渡しを受けるということはありません。また、賃貸人から、賃借人が破産したことだけを理由として契約を解除することもできません。

この点に関して、裁判所で採られている考え方をご説明します。

不動産の賃貸借契約の解除が認められるには、賃借人に契約違反(賃料の未払いなど)があり、さらに、賃貸人と賃借人の信頼関係が破壊されたといえるだけの事情が必要とされています。

一般の契約であれば、例えば、商品の売買でいうと、買主が代金を支払い、売主が商品を渡すという契約になりますが、ここで買主が約束通りの代金を支払わなければ、売主は買主の契約違反を理由に契約を解除することができます。これが一般の契約のルールです。

しかし、賃貸借契約では、契約違反+信頼関係の破壊があって初めて解除が認められることになります。これを「信頼関係破壊の法理」といいます。

賃貸借契約は、物を貸す契約であるため、賃貸人と賃借人の間に一定の信頼関係があることを前提に、一定の期間、契約が継続することを内容とするものであるため、1度や、2度契約に反したとしても、それのみで契約の解除を認めては、例えば、賃借人の生活の本拠を奪うことになり、契約違反をした賃借人とはいえ酷な状況になってしまいます。そこで、そもそもの信頼関係が破壊されるまでに至っているかという点で判断をされるのです。

したがって、仮に、賃借人が多額の借金を負っていて破産をするとしても、賃料は毎月払っている場合や、1度や2度支払いが遅れて支払いをしたことがあるというような場合には、信頼関係が破壊されたとまでは言えないため、賃貸人としては賃貸借契約を解除することができないのです。

ただし、賃料の支払いが半年、1年と滞納されているような状況であれば、もはや信頼関係が破壊されているものとして、契約を解除することが認められます。

破産管財人の選任

したがって、賃貸人が、賃借人が破産をしたからといって当然に契約を解除することはできません。ただ、破産手続の中で契約の解除がなされることがあります。

まず、破産手続は、破産者の財産や、負債の状況を調査し、財産がある場合にはこれを換価して、債権者に平等に返済が行われる手続であり、この調査や財産の換価手続を行う者として、裁判所が破産管財人を選任することがあります。

そして、この破産管財人に、破産者の賃貸借契約を継続するか解除するかを決める権限が認められています(破産法53条)。

したがって、破産管財人が賃貸借契約を解除するという判断をした場合には、契約が解除されて、賃借人の明け渡しがされることになります。破産手続の中で、必要の無い賃貸借契約であれば賃料の支払い債務が毎月発生することになるので、解除をすることになるでしょうし、転貸収入がある場合や倉庫として在庫を保管している場合などには契約を継続することが必要になってくるでしょう。

これに対して、賃貸人は、破産管財人に対して、解除するのか継続するのかについて確答するよう催告(問合せ)をすることができます。これにより、破産管財人から解除をするという回答がなされるか、この回答自体が無い場合には契約が解除されたものとみなされます。解除ということになれば、破産管財人が、不動産の明け渡しを行うことになります。

賃料について

契約の継続、解除については、上に述べたとおりですが、最後に賃料についてご説明します。支払われていない賃料がある場合に、賃借人が破産をしたらどうなるかということです。

まず、「破産手続の開始前」の滞納賃料や、既に契約の解除がなされ明け渡しも受けている場合に原状回復に要した費用の支払いがされていない場合、これらは、一般の破産債権として、他の債権と同様に、破産手続の中で配当(弁済)が可能なだけの破産財団(財産)が有る場合にのみ、他の債権者と平等の割合で返済がなされることになります。破産をする状況にあるので、全額の支払いを受けることは難しいというのが実感です。

また、破産管財人が賃貸借契約の継続を選択した場合、「破産手続が開始した以後」の賃料については、財団債権といって優先的に支払いがなされることになるので、破産手続開始から解除までの賃料については支払いを受けることになります。また、破産管財人が解除を選択した場合で、明け渡しを受けた後の原状回復費用も、財団債権として、優先的な支払いを受けることになります。

このように、賃借人の破産に関しては、解除できるかどうかということや、未払いの賃料がどうなるのかといった点で、具体的な事情に併せた対応が必要になります。このような状況に遭遇してしまった場合には、一度当弁護士事務所にご相談にきていただければと思います。