交通事故

加害者の責任

加害者の責任

万が一、交通事故を起こしてしまった場合、その加害者は法的に様々な責任を負うことになります。その交通事故の加害者が負う責任については、被害者に対する民事上の責任、刑事上の責任、行政上の責任という大きく3つに分けることができます。
この3つの責任については、それぞれ別個独立のものなので、「民事上の責任は負うけれど、刑事上の責任は負わない」というように、特定の責任のみが課されることもありますし、3つ全ての責任を負うことになる場合もあります。
ここでは、この加害者の責任について、具体的に説明します。

民事上の責任

交通事故の加害者は、被害者に対して、その事故によって発生した損害を賠償する責任を負います。これが、交通事故における加害者の民事上の責任です。この民事上の責任については、実際には、被害者から加害者に対して、不法行為に基づく損害賠償請求として責任追及されることになります。
その中で加害者が、被害者に対して、損害として賠償しなければならないものには、次のようなものがあります。これには、具体的には、怪我をした場合の治療費や、仕事を休まざるを得なかった場合の休業損害、さらには後遺症が残ってしまった場合の逸失利益や、慰謝料などが含まれます。
なお、加害者が民事上で負う責任については、あくまで上記で説明したような金銭の支払い義務のみであって、民事上ではそれ以外に何らかの責任を問われることはありません。

【加害者が賠償しなければならない損害の範囲】

  • 治療費
  • 休業損害
  • 逸失利益
  • 慰謝料
  • 車の修理費

など

刑事上の責任

加害者は、刑事法で裁かれることによって、懲役刑や罰金といった刑事罰を受けることになる場合もあります。このように、交通事故により刑事罰を科せられることが、加害者の刑事上の責任となります。
もっとも、刑事上の責任は、交通事故を起こしたらいつでも科せられるというわけではありません。通常は、物損と呼ばれる怪我人のいない事故の場合には、刑事上の責任を追及されることはありません。逆に言えば、人身事故と呼ばれる相手がケガをしてしまった事故の場合には、刑事罰が科せられる可能性があります。

過失による人身事故の場合

過失によって事故を起こしてしまい、被害者を死亡させてしまったり、ケガをさせてしまった場合には、自動車運転処罰法に規定されている過失運転致死傷罪という犯罪となります。ここでいう過失とは、具体的には、脇見運転や前方不注意、アクセルとブレーキの踏み間違いなどをいいます。
この過失運転致死傷罪が成立すると、加害者は、7年以下の懲役・禁錮か100万円以下の罰金に処せられます。

自動車運転処罰法が制定されるまでの経緯

従来、自動車事故の加害者については、刑法における業務上過失致死傷罪が適用されていました。しかし、交通事故にこの業務上過失致死傷罪を適用すると、刑が不当に軽くなるという批判が相次いでいました。
そのため、その後に、刑法内に自動車事故専用の犯罪類型として、自動車運転過失致死傷罪と危険運転致死傷罪が設けられました。しかしながら、当時、社会問題化していた悪質な交通事故については、これらの新しい犯罪類型によっても、十分に対応することはできませんでした。
そこで、ついに自動車事故の加害者を処罰するための専用の法律である自動車運転処罰法が制定されることになりました。今まで刑法の中にあった自動車事故専用の条文は、その内容をしっかりと拡充された上で、この新しい法律に取り込まれました。
そして現在では、自動車事故の加害者は、この自動車運転処罰法にもとづいて、厳格に処罰されることになっています。

【加害者に適用される犯罪規定の時系列での変化】

過失による場合 悪質な場合
旧来

業務上過失致死傷罪(刑法)

業務上過失致死傷罪(刑法)

2007年以降

自動車運転過失致死傷罪(刑法)

危険運転致死傷罪(刑法)

現在

過失運転致死傷罪(自動車運転処罰法)

危険運転致死傷罪(自動車運転処罰法)

悪質な人身事故ではさらに重い責任が

ある交通事故が過失によって起こったというよりも、もはやわざと引き起こされたものといえるほどに特に悪質な場合については、自動車運転処罰法に別途専用の犯罪類型が定められています。それが、危険運転致死傷罪です。
危険運転致死傷罪が成立するのは、加害者の次のような事情を原因として事故が起こり、被害者が死亡または怪我をしてしまった場合に限られます。具体的に事故の原因となった加害者側の事情として挙げられるのは、加害者が、アルコールや薬物の影響で正常に運転できないのに運転したり、制御できないほどの速度超過をしたり、さらに、近年問題となっているあおり運転を行なったことなどです。
この危険運転致死傷罪は、上記の過失運転致死傷罪と比べると非常に重い犯罪です。そこで、その法定刑についても、過失運転致死傷罪と異なり、罰金刑はなく懲役刑しかありません。

ひき逃げの場合はさらに別の犯罪も成立する

ひき逃げをしてしまった場合には、上記の過失運転致死傷罪や危険運転致死傷罪のほかに、道路交通法に規定されている負傷者の救護義務や、事故を報告する義務にも違反したことになってしまいます。
これらの道路交通法違反は、過失運転致死傷罪や危険運転致死傷罪という自動車運転処罰法違反と併せて成立するので、この場合には2つ以上の犯罪の責任を問われることになります。
となると、科せられる刑罰も当然重くなりますので、厳罰に処せられることを覚悟しなければなりません。
なお、道路交通法に規定されている負傷者の救護義務と事故を報告する義務の内容については、次のとおりです。

負傷者の救護義務

事故を起こしてしまい負傷者が出た場合は、迅速に負傷者の救護を行わなければなりません。ここでいう救護とは、例えば、負傷者を安全なところに移動させたり、救急車を呼んだり、時には心臓マッサージや人工呼吸を行なうことなどをいいます。
これは、道路交通法により規定されている法律上の義務なので、これを行わないと救護義務違反により刑罰が科せられてしまいます。
この負傷者の救護義務を行わない典型例が、ひき逃げです。

事故を報告する義務

また、事故を起こしてしまった場合は、最寄りの警察署へ、事故の詳細を報告しなければなりません。これについても、負傷者の救護義務と同様に、道路交通法に規定されている法的な義務なので、違反すると刑罰が科せられます。
ですので、例えば、事故の現場で、被害者がすり傷程度の軽傷であったため、「自分は大丈夫だから気にしないで」と言っていたような場合でも、交通事故である以上、必ず警察へと報告する必要があります。後日、被害者の家族によって警察に報告されること等により、加害者が報告義務を怠っていたことが判明すると、この報告義務違反だけでも状況次第では逮捕されてしまう場合もあります。

飲酒運転で事故を起こしてしまった場合

飲酒運転をした上で事故を起こしてしまった場合にも、飲酒運転自体が道路交通法違反になってしまうので、人身事故の場合には過失運転致死傷罪などと併せて、2つ以上の犯罪の責任を問われてしまいます。
その場合、過失運転致死傷罪も飲酒運転自体も、どちらも法律で重い罰則が規定されているので、厳罰に処せられる可能性が高くなります。
また、飲酒運転で人身事故を起こした場合、最悪のケースでは危険運転致死傷罪が適用されます。この危険運転致死傷罪が適用されると、殺人罪の場合と変わらないような非常に重い刑罰が科せられることもあります。

行政上の責任

事故を起こしてしまった場合、行政処分として自動車の運転免許の取り消しや停止がなされてしまうことがあります。これが、交通事故の加害者が負う行政上の責任です。
なお、事故を起こした場合には必ず運転免許が取り消されるわけではなく、事故や交通違反により違反点数が加算され、それが一定の点数に到達することで、免許の取り消しや停止の行政処分が行われます。
もっとも、交通事故の相手を死亡させてしまったり、相手のケガの程度が重かった場合には、違反点数の累積を待たずに、一発で免許の停止や取り消しという行政処分が下される場合もあります。