交通事故

賠償してもらえる損害の範囲

賠償してもらえる損害の範囲

交通事故に遭った場合、被害者は、加害者に対して、自分が受けた損害を賠償するように請求することができます。この加害者に対する損害賠償請求については、2つの場面に分けて考えることができます。
その1つめが、①どんな損害であれば賠償してもらえるのかという、賠償してもらえる損害の範囲の問題です。これは、専門的には、請求できる「損害の費目」ともいいます。
そして2つ目が、②この①の損害について、具体的にはいくら賠償してもらえるのかという、賠償してもらえる金額の問題です。この②の金額の問題については、①の賠償される損害の範囲を特定した後でなければ、具体的にその金額を計算することができません。
そこで、ここではまず、このうち①賠償してもらえる損害の範囲の問題について、説明します。

人についての損害(人的損害)

損害は、細かく分類すると、被害者「自身」について生じたものと、被害者の「物」について生じたものとに分けられます。これを、それぞれ人的損害と物的損害といいます。
交通事故により発生した損害としては、この人的損害も物的損害もどちらについても加害者に賠償してもらうことができます。
そして、人的損害については、さらに細かく分類され、それは財産的損害と精神的損害とに分けられます。ここでいう精神的損害とは、みなさんも普段からよく耳にするであろう慰謝料のことをいいます。他方、財産的損害とは、人的損害のうち慰謝料以外の損害のことをいいます。
交通事故においては、被害者に生じた人的損害について賠償してもらえる以上、それを細分化した財産的損害と、精神的損害である慰謝料についても、もちろん賠償してもらえる損害の範囲に含まれます。

現実にお金を支出した損害(積極損害)

財産的損害については、積極損害と消極損害とに分かれます。積極損害とは、「実際にお金を支払ったため、口座や財布の中からお金が減ってしまったその損害」のことをいいます。
この積極損害のうち、交通事故の加害者に対して賠償してもらえるものとしては、次のようなものがあります。

治療費

交通事故によりケガをしてしまい、病院にて入院や通院で治療が必要になった場合には、それにかかった治療費も損害に含まれます。
もっとも、ケガにより後遺障害が残ってしまう場合、これ以上治療を続けても症状が改善しない状態(「症状固定」といいます)となった後の治療費については、原則として、損害として認められません。なぜなら、症状固定に至った以上、それ以降の治療については必ずしも必要な治療とは言えないからです。

接骨院や鍼灸院での施術費用は?
では、接骨院や整骨院、鍼灸院での施術治療にかかった費用については、賠償してもらえる損害に含まれるのでしょうか。
この点については、これらの施設は医療機関ではありませんが、その施術が医師や医療機関の指示によって行われていた場合には、必要な治療として認められる事が多いです。
しかし、長期間にわたって高い頻度で漫然と施術を受けていたような場合には、その一部しか損害として認められないこともあります。

付添看護費

交通事故によってケガをしてしまった場合、その治療のために入院や通院をすることになりますが、ケガの程度や箇所しだいでは、その際に他者の付き添いが必要となることがあります。その付き添いのためにかかる費用を付添看護費といい、これも損害として認められます。
もっとも、どのような場合でも損害として認められるわけではなく、医師の指示がある場合や、被害者の年齢やケガの状態などから、付き添いが必要だと判断される場合に限られます。また、付添人は誰でもいいわけではなく、そのケガをした被害者の近親者や、ヘルパーなど職業付添人による費用のみが、損害の範囲に含まれることになります。

入院雑費

ケガをして入院をしなければならなくなった場合、入院時の衣類、歯ブラシ、新聞などを購入する必要が出てきます。また、電話代などの通信費や、テレビの視聴料などの費用が必要となることもあります。これらをひっくるめて入院雑費といいますが、この入院雑費についても損害として認められています。

通院交通費

また、ケガをして通院しなければならない場合には、病院までの電車代やバス代、ガソリン代などの交通費がかかります。このような通院交通費も、損害の範囲に含まれます。
もっとも、タクシーを利用して通院した場合には、注意が必要です。通院するのにタクシーを利用する必要性はなかったと判断された場合には、公共交通機関の利用料金やガソリン代の限度でしか、損害として認められません。

葬祭費

交通事故により被害者が死亡してしまった場合、その葬儀代についても、損害として認められます。
また、葬儀代だけではなく、墓碑や仏壇の建立費用についても、損害に含まれることになります。

事故がなければ受け取れたであろうお金(消極損害)

財産的損害は上記のように積極損害と消極損害に分かれますが、消極損害とは、本来得ることのできたお金なのに、交通事故のせいで受け取れなかったという損害のことをいいます。
この消極損害の中で、加害者に対して、賠償を請求できる損害には、以下のものがあります。

休業損害

交通事故によりケガをした場合、入院や通院をするために、仕事やパートまたはアルバイトを休まざるを得なかったり、時短勤務をしなければならなくなってしまうこともあります。そうなると、勤務時間が減るわけですから、会社からもらっている給料やアルバイト代も減ってしまうことになります。
このように、本来手にできていた収入が交通事故のせいによって減少してしまった場合、その収入の減少についても、損害として認められています。

専業主婦(主夫)にも休業損害はあるの?
では、専業主婦(主夫)については、外部からお金を直接に得ているわけではありませんが、この専業主婦の場合にも休業損害が認められるのでしょうか。
この点、外部からお金を得ているわけではないといっても、きちんと家事労働をしているわけですから、専業主婦(主夫)もそれに見合った休業損害を受け取ることができます。

逸失利益

交通事故により死亡してしまった場合は、ご本人がいなくなってしまうわけなので、それ以降の収入はなくなってしまいます。ただ、このなくなってしまう収入は、その交通事故がなければ本人が未だに生存していたわけですから、「本来は受け取ることができたのに、事故のせいで受け取ることができなくなってしまったお金」といえます。
また、後遺障害が残ってしまった場合は、障害により今まで通りには働くことができなくなり、労働能力が低下します。そうなると、それに合わせて、収入も減少してしまうことが通常です。したがって、本来もらえていたはずの収入が、事故による後遺障害のせいでもらえなくなってしまいます。
死亡事故や後遺障害が残ってしまった場合における、このような「本来はもらえていたはずなのに、事故のせいでもらえなくなった部分のお金」のことを逸失利益といいます。そして、この逸失利益については、加害者に賠償を請求できる損害として認められています。

慰謝料も請求できる(精神的損害)

交通事故の被害に遭った場合、事故のせいで精神的に苦痛を被ったとして、慰謝料についても損害として加害者に請求することができます。
ただ、被害者が死亡・ケガをしてしまった人身事故ではなく、誰もケガ人がいない物損事故の場合には、原則として慰謝料は損害として認められません。ですので、例えば、どれだけ大事にしていた車が傷ついてしまい、ずっと気分が落ち込んで精神的な損害を受けたというような場合でも、残念ながら慰謝料を請求することはできません。

物についての損害(物的損害)

交通事故においては、人について生じた損害だけでなく、物について生じた損害についても、加害者に賠償を請求できます。交通事故で、被害者の物に生じた損害として、よく挙げられるものには、次のものがあります。

車両修理費

事故により、車が壊れてしまった場合には、その修理費も損害として認められます。
しかし、その修理費が全て損害として認められるわけではなく、あくまで事故による故障を修理するために必要だと認められる範囲でのみ、損害に含まれます。ですので、例えば、車体の一部の板金・塗装による修理だけで済むにもかかわらずあえて全塗装をしたような場合には、その余分にかかった修理費については、損害として認められません。
また、車がもはや修理ができないほどに全損してしまった場合には、原則として、その車の時価額が損害となります。

代車使用料

車を修理に出す場合、その修理期間中に車がないと、日常生活に支障が出てしまいます。そこで、レンタカーや修理屋から代車を借りることになります。この場合のレンタカー代や代車の料金のことを代車使用料といい、これも損害の範囲に含まれます。
もっとも、この代車使用料についても上記の車両修理費と同様に、あくまで相当な範囲でしか損害としては認められません。例えば、大衆車で事故に遭いそれを修理に出しているが、「せっかくだから高級車に乗りたい」ということでフェラーリを借りた場合は、その使用料はもちろん損害には含まれません。