不動産・建築トラブル

借地トラブル

借地トラブル

土地についての賃貸借契約は、長期間継続することがほとんどであり、その間に貸した土地やその周辺の事情が変わることはもちろん、賃貸人や賃借人が代わることも少なくありません。その結果、借地をめぐる様々なトラブルの発生が、多々見受けられます。
このような借地トラブルのうち、最も多い賃料滞納問題や賃貸借契約の解約問題などは、基本的には賃貸人から賃借人に対して請求されるものが、その大多数を占めています(詳細は「家賃・賃料滞納者への対応」や「立ち退き・明渡し」を参照)。
しかし、借地トラブルにおいては、それとは反対に、賃借人が賃貸人に向けて自己の主張していくケースも、もちろん存在します。ここでは、借地トラブルの中で、そのような賃借人から申立が行われるものを中心に説明します。

※ここで説明する5つの申立手続は、借地非訟事件といわれ、通常の訴訟手続とは異なる流れで進行し、さらに、複雑な法的判断が必要となります。また、その内容についても、読んでもらうとわかるかと思いますが、非常に難解です。このような借地非訟事件になりそうな場合は、まずは弁護士に相談することをおすすめします。

借地条件変更申立

土地を借りてそこに建物を建てるという賃貸借契約では、建てることができる建物の種類や構造、用途が限定されていることがあります。賃借人が、この限定された借地の条件を変更して新たな建物を建てたいと考えた場合、この条件を変更することについて賃貸人の承諾をもらう必要があります。
しかし、承諾するか否かは賃貸人の自由なので、時には正当とは言い難い理由で承諾を得られないこともあります。
このような場合には、裁判所に借地条件変更の申立を行い、裁判所がその借地条件の変更が相当だと判断すれば、その変更を認める決定が下されます。そうすると、元の賃貸借契約が、裁判所の決定の内容のとおりに変更され、その内容に従った新たな建物を建てることができるようになります。

借地条件に違反することは絶対にダメ

なお、たとえどんなに賃貸人の不承諾の理由が理不尽極まりなかったとしても、借地条件変更の申立を行うことなく、元の賃貸借契約の内容に反して新たな建物を勝手に建ててしまうことは、絶対にやめて下さい。
この場合、用法(順守義務)違反として、賃貸人から無条件で契約を解除されてしまう理由になり得ます。そうなってしまうと、新しい建物を建てるどころか、そもそもその土地を利用できなくなってしまいます。

増改築許可申立

土地を借りる賃貸借契約では、その土地の上に建てた建物の建替えや増築、または改築をする際には、土地の賃貸人の承諾を得なければならないと、定めているケースがあります。このような場合には、賃借人がリフォーム工事等をするためであっても、賃貸人の承諾を得る必要があります。
しかし、賃貸人にそのような工事をすることの承諾を求めても、断られてしまうこともあります。
そこで、土地の賃貸人にリフォーム工事等を断られた場合には、裁判所に増改築許可の申立をして、裁判所からその増改築を許可する旨の決定を得なければなりません。

無断増改築は百害あって一利なし

仮に、建物の所有者が賃借人本人であり、その新たな建築費用を賃借人が全額支払うとしても、賃貸人の承諾のないリフォーム工事等は絶対に行なってはいけません。
確かに、このような場合だと、「建物は自分のものだし、それをリフォームするお金も全部自分が払うわけだし、別に土地の貸主の承諾をなくても問題なさそう」と思いがちです。
しかし、増改築をする際に賃貸人の承諾が必要だとする条項の効力が有効である以上、賃貸人の承諾等を得ずにリフォーム工事等をすると、建物無断増改築として契約を解除されてしまう理由になり得ます。

賃借権譲渡許可申立

借りた土地の上に建てた建物を第三者に譲渡する場合、建物の所有権だけでなくその建物が建っている土地の賃借権(土地を借りている人として扱われるための権利)も同時に譲渡されます。これはよく考えてみれば当然で、そうでなければ建物を譲り受けても、土地を使えない以上、その上に建っているその建物を利用できなくなってしまいます。
しかし、法律では、賃借権を譲渡するためには、その前に賃貸人の承諾を得なければならないことになっています。

借地上の建物を売る際にやるべきこと

そのため、もし、借りている土地の上に建てた自分の建物を、他の人に売ろうと考えた場合、契約をする前にやらなければならないことがあります。
それは、まず①建物を他の人に売る前に(正確には、売買契約書に署名押印する前)、賃貸人から任意で売却(つまり土地の賃借権の譲渡)の承諾をもらうことです。
仮に、それがダメなら、②裁判所に賃貸借譲渡許可を申し立てて、「賃借人が他の人に土地の賃借権を譲渡することを許可する」という旨の認容決定を得なければなりません。つまり、この①か②のどちらかの手続きをとってから、建物の売却についての契約書を完成させなければならないわけです。
なお、土地の賃貸人に事前の承諾をもらわずに土地の賃借権を譲渡(建物の売却を)してしまうと、原則として、賃貸人から無条件で土地の賃貸借契約を解除されてしまう原因になってしまいます。

賃借権を譲渡する際の注意点

この賃借権の譲渡には賃貸人の承諾が必要だという「無断賃借権譲渡の制限」は、賃貸借契約という契約体系の全体に及ぶ法律上の規制なので、たとえ賃貸借契約書に書いてなかったとしても絶対に守らなければなりません。この点は、上記の借地条件に関するケースや、増改築に関するケースとは異なるので注意して下さい。
また、賃借人が第三者に賃借権を譲渡しようとした場合、賃貸人がその第三者に賃借権を渡したくないと考えたとします。この場合、賃貸人は、その第三者への対抗手段として、その譲渡の承諾をしないという方法のほかに、賃借権を自分自身が譲り受けるという方法を取ることができます(詳細は、下記の【賃貸人による建物および土地賃借権譲受申立】にて説明)。
ですので、賃借権譲渡許可の申立をしたからといって、必ずしも第三者への賃借権譲渡ができるわけではありません。

競売または公売に伴う土地賃借権譲受許可申立

土地を借りて建物を建てていた賃借人が借金を返済できなかった場合、強制執行手続等により、この建物が競売または公売されることがあります。そして、競売でこの建物を競り落とした人が、新たに建物の所有権を譲り受けるのですが、同時に底地である土地の賃借権も譲り受けることになります。
そのため、この競売手続等においても、建物を持っていた人から、競売で競り落とした人への賃借権の譲渡が同時に行われることになるので、この場合にも土地の賃貸人の承諾が必要となります。

競売により賃借権が譲渡される場合特有の問題

ただ、通常の賃借権譲渡の場合(上記【賃借権譲渡許可申立】を参照)とは異なり、競売の場合には、建物の買い手が誰になるのかは落札されるまで当然わからないので、事前に土地の賃借権を得る第三者が誰であるかを知ることは不可能であり、賃貸人から賃貸借譲渡の事前承諾を得ることはできません。
そのため、競売で建物を競り落とした第三者は、①賃貸人との間で任意に賃借権譲受の承諾をもらうか、②裁判所に競売代金を納めた日から2か月以内に、競売または公売に伴う土地賃借権譲受許可の申立を行い、裁判所からこの第三者がこの土地の賃借権を譲り受けることを許可する旨の認容決定を得る必要があります。

競売の場合でも賃貸人は自分で賃借権を譲り受けられる

もっとも、この場合でも、賃貸人による賃借権を自分自身で譲り受ける手続きによって、賃貸人から対抗される可能性があります。
よって、もし土地と建物の所有者が異なる場合の建物を競売で競り落とすのであれば、土地の賃借権の譲り受けがうまくいかずに建物を得られない可能性があることを念頭に、行動するようにしましょう。

賃貸人による建物および土地賃借権譲受申立

前述した土地の賃借権の譲渡に関する2つの申立てにおいて(上記【賃借権譲渡許可申立】と【競売または公売に伴う土地賃借権譲受許可申立】を参照)、土地の賃貸人は、賃借人から第三者への賃借権譲渡を阻止したいのであれば、2つの方法をとることができます。
1つめが、相手方(賃借人または第三者)の申立てを棄却するための主張立証をするという方法です。これは、具体的には、「第三者に賃借権が譲渡されることにより、賃貸人に不利益となるおそれがあること」を裁判所で主張立証します。
そして2つめが、相手方の申立において裁判所が定めた期間内に、その土地の賃借権および借地上の建物の所有権を賃貸人が取得する旨を裁判所に申し立てるという方法です。

賃貸人の介入権

この2つめの方法である申立(建物および土地賃借権譲受申立)をした場合、裁判所は賃借人が賃貸人に対して建物および土地賃借権を譲り渡すことを命じる認容決定を下します。その結果、賃貸人は、優先的に賃借権を譲り受けることができます(この賃貸人の権利を介入権と呼ぶことがあります)。
なお、賃貸人が土地賃借権と建物を取得すると、賃貸人と賃借人とが同じ人になるので、基本的に賃貸借契約(正確には、契約から生ずるすべての権利義務)は混同により消滅します。そして、賃貸人が、借地だった自分の土地の上に、自分の建物を所有するという単純な権利関係のみが残るわけです。
このように、賃貸人に介入権を使われてしまうと、賃借人や第三者としては、その建物を手に入れることができなくなってしまいます。そのため、土地賃借権譲渡において、賃借人や第三者は、賃貸人が介入権を行使しないようするために、過度に賃貸人との対立を激化させることは避けるべきです。