不動産・建築トラブル

賃貸マンション・アパートのトラブル

賃貸マンション・アパートのトラブル

不動産にまつわるトラブルには、様々なものがありますが、その中でも重要なものとして、賃貸マンション・アパートにおけるトラブルがあります。賃貸マンションやアパートにおけるトラブルには、持ち家や分譲マンションの場合とは異なる賃貸特有のものがあります。
ここでは、その賃貸特有のトラブルの中で、特によく耳にするであろう「修繕」と「原状回復」の問題について、説明します。

修繕について

例えば、賃貸マンションやアパートの部屋に雨漏りがして、その修繕が必要となったような場合、原則として部屋を貸す側である賃貸人が、これを修理する義務(修繕義務)を負います。
これは、そもそも賃貸借契約は、賃貸人が賃借人に対してその部屋を使用させて、その対価として賃料の支払いを受けるという契約ですので、借り手が部屋を使用するために必要となる修繕については、貸し手が負担すべきであるという理由に基づいています。

どんな場合でも大家さんに修繕してもらえるの?

しかし、この貸し手である賃貸人の修繕義務は、借り手である「賃借人が使用目的に従って使用するのに必要な」場合のみに、限られます。
ですので、たとえば、ドアの開け閉めが重くなってきたから修繕して欲しいとか、壁のクロスが経年により汚れてきたので貼り替えて欲しい、といった請求は認められません。
これに対し、雨漏りがして部屋の使用に支障が出ているような場合とか、シロアリが発生して床の一部が抜けてしまったといった場合などは、賃貸人がその修繕義務を負担するところとなります。
このように、具体的にどのような場合が、部屋の「使用をするのに必要な」場合にあたるかは、使用目的や破損や障害の箇所・程度、賃料の額、賃借期間などを総合的に考慮して、判断されることになります。

まずは契約書内の修繕義務の条項をチェック

ただ、通常は、賃貸借契約書の中に、賃貸人と賃借人がどの範囲で修繕義務を負うかについての条項が設けられているので、その場合は、その契約内容に従うことになります。
実際の賃貸借契約書において、よく目にする条項は、「基礎、土台、柱、梁などの躯体や構造についての修繕は賃貸人が、その他の修繕は賃借人が、それぞれ負担する」とか、「大修繕は賃貸人が、小修繕は賃借人が、それぞれ負担する」といったものです。
もっとも、このような場合に、発生した破損や障害が躯体や構造に関する修繕となるのかどうか、大修繕となるのか小修繕なのかについては、必ずしも一義的には決められません。
そこで、賃貸借契約書に別紙をつけて、賃貸人が修繕義務を負う場合と賃借人が修繕義務を負う場合とを、区別して記載してある契約書もよく目にします。

契約書内に賃貸人の免責特約があることも

賃貸借契約書の修繕義務の条項の中には、「賃貸人は一切修繕義務を負わない」といった規定(免責特約)が記載されている場合もよくあります。
法律では、賃貸人の修繕義務については、このような賃貸人の免責特約を定めることも有効ですので、このような特約が設けられているときは、賃貸人は修繕義務を免れることができます。
ただし、高額な賃料を得ているにもかかわらず、「賃貸人が躯体や構造に至るまですべての修繕義務を免れ、これをすべて賃借人に負担させる」というような特約は、賃貸人が事業者で賃借人が消費者の場合には、賃借人の利益を一方的に害するものとして、無効となる場合があります。

「賃借人が全ての修繕義務を負う」という特約があるケースも

なお、「修繕義務はすべて賃借人が負う」という特約が設けられる場合もあります。このような特約も、上記の免責特約の場合と同様、有効ではあります。
しかし、この特約の趣旨は、「賃貸人は修繕義務を負わない」という免責特約の場合と同じであり、賃借人が積極的な修繕義務を負うということではありません。
したがって、賃貸人が、この特約を根拠にして、賃借人に対して修繕を求めることはできません。

賃借人が破損させてしまった場合は誰が修繕するの?

このようなケースでは、賃貸人が修繕義務を負う(ただし賃借人は賃貸人に損害賠償義務を負う)場合と、賃貸人が修繕義務を負わない場合のどちらもあり得ます。
そこで、この場合にも、まずは賃貸借契約書の修繕義務の条項を確認してみましょう。

老朽化している建物では通常と異なる場合がある

老朽化している建物の賃貸借においては、通常の建物の賃貸借の場合とは、修繕の内容について、通常とは異なる取り扱いが認められることがあります。
たとえば、新築後に相当な年数が経過してかなり老朽化している建物の場合、本来であれば賃貸人が修繕をしなくてはいけない破損があったとしても、その修繕に多額の費用がかかるのであれば、そのままでも使用に差し支えない部分については、例外的に賃貸人に修繕義務はないと判断されることがあります。

賃貸人が修繕をしてくれない場合にはどうすればいいの?

賃貸人が修繕義務を負っているにもかかわらず、その修繕をしてくれない場合には、賃借人はどのように対応すればよいのでしょうか。その対応方法は以下のとおりです。

損害賠償の請求

まず、賃借人は、大家や管理会社という賃貸人が修繕義務を行わないことを理由として、賃貸人に損害賠償を請求することができます。

修繕にかかった費用の請求

次に、賃借人は、賃貸人が修繕してくれない破損について、それを自分で修繕して、その修繕にかかった費用を賃貸人に請求することができます。
また、この場合、修繕にかかった費用と賃料とを相殺することもできます。
なお、そもそも、賃借人が賃貸人の所有物に自分で修繕をすることができるのかについては、今までの民法には規定がありませんでしたが、判例は従来これを認めていました。

【知っておきたい!】

そして、2020年4月1日から施行される改正民法により、

  • 賃借人が賃貸人に修繕が必要である旨を通知したか、または賃貸人がその旨を知ったのに相当の期間内に必要な修繕をしないとき

または

  • 急迫の事情があるとき

には、賃借人が自ら修繕することができると、ついに民法に明記されました。

※この規定は、2020年4月1日以降に締結された賃貸借契約にのみ適用されるので、注意!

賃料の支払い拒否

賃借人は、賃貸人が修繕をしてくれるまでの間、部屋を使用収益できない割合に応じた金額の賃料の支払いを拒むことができます。
具体的に言えば、部屋を全く使用収益できない場合には、賃料の全額の支払いを拒むことができますが、部屋の一部だけ使用収益が可能な場合には、その一部の部分に相当する賃料については、きちんと支払わなければなりません。
したがって、たとえば複数ある部屋の一つにあまりひどくない雨漏りが生じていた場合に、賃貸人が修繕をしてくれないからといって賃料全額の支払いを拒んでいると、賃貸人から賃料不払いを理由に賃貸借契約を解除されてしまうので、この点には注意が必要です。

修繕の不履行と賃料の減額

従来の民法には、借りていた建物の一部が賃借人の過失によらないで滅失したときは、賃借人はその滅失した部分の割合に応じて賃料の減額を請求することができる、という規定がありました。

【知っておきたい!】

なお、2020年4月1日から施行される改正民法では、この規定は改正され、賃料の「減額を請求することができる」のではなく、「当然に減額される」ことになったので、注意が必要です。

※この規定は、2020年4月1日以降に締結された賃貸借契約に適用されます。

たとえば、借りていた2階建ての借家の2階部分が火事で燃えてしまった場合、1階部分だけでも生活することができるのであれば、賃借人は、2階部分に相当する賃料の減額を賃貸人に求めることができます。
これと同様に、借りている2階建ての建物において2階部分の雨漏りがひどく、賃貸人が修繕をしてくれないために2階が使用できない状態になった場合には、この場合は「滅失」ではありませんが、「滅失」の場合と同様に、使用できない2階部分に相当する賃料の減額を請求することができる、と考えられています。

原状回復について

建物の賃貸借契約が、契約期間の満了や契約の解除・解約などで終了したときは、賃借人は借りていた建物を「原状」(建物を借りた時点の状態)に戻した上で、賃貸人に返さなければなりません。
これが、賃借人の「原状回復義務」と一般的に呼ばれているもので、賃貸借契約書においては、この原状回復義務が定められていることが通常です。
また、賃貸借契約書に原状回復義務がうたわれていない場合でも、この義務は民法の規定によって生じるものなので、賃借人は原状回復義務を負うことになります。

賃借人はどこまで範囲で原状回復しなければならないの?

借りていた建物を「原状」に戻すといっても、賃借人と賃貸人のどちらが、どの範囲で回復義務を負うのかについては、法律には規定がありません。そのため、これまで、賃貸人と賃借人との間で、この点をめぐって多くの紛争が生じていました。

裁判所が示した基準

そこで、この点について、裁判所は、通常の使用をしていればそうなるであろう状態であれば、使用開始当時の状態よりも悪くなっていたとしても、そのままの状態で返還すればよいとしました。つまり、賃借人が通常の使用をした場合に生じる賃借物件の劣化や価値の減少(「通常損耗」)については、賃借人が回復義務を負わないという判断を示したのです。
これに従えば、「通常損耗」の回復は、賃貸人が負担すべきであって、通常の使用を超えて賃借人の故意・過失によって生じた劣化や汚損は、賃借人が負担すべきということになります。
なぜなら、賃貸借の建物は、時間の経過により当然その価値が減少する上、時の流れと通常使用によって損耗が生じることは当初から予定されているから、それらは賃料の中に含まれているといえるわけです。

原状回復しなければならない物の具体例

【賃借人が原状回復しなくていいもの】

  • 壁や天井のクロスや、日焼けによる畳の変色
  • 家具を置いていた床の凹み
  • 壁に絵を掛けていたことによるクロスの変色
  • エアコン設置のためのビスの穴

上記の考え方に基づけば、これらについては、通常の使用によって生じたものと考えられるので、賃借人は原状回復義務を負いません。

【賃借人が原状回復しなければならないもの】

  • 飼っていたペットがつけた柱や床の傷や臭い
  • タバコを吸っていたため、クロスについたヤニや臭い
  • タバコを落としたことにより生じた床や畳の燃え跡
  • 夫婦喧嘩の際に空けられた壁の穴
  • サッシが結露していたにもかかわらず、長期間放置していたために生じたカビ

他方、これらのものについては、通常の使用によって生じたものとは言えないので、賃借人が原状回復義務を負うことになります。
ただ、原状回復しなければならない物については、常に新品価格での金額を支払わなければならないわけではないので、この点には注意が必要です。
たとえば、賃貸人が設置したエアコンを賃借人が壊してしまい修理が不可能な状態になってしまった場合、賃借人は原状回復義務を負います。しかし、そのエアコンが新品で設置した後、すでに5年が経過しているような場合には、壊した時点では既に価値が下がっているわけなので、新品に買い替える費用までも賃借人が負うことはなく、中古品に相当する価格を負担すればよいということになります。

原状回復についての特約

このように、通常の使用によって生じた損耗や劣化についての原状回復義務は、本来は賃貸人が負担すべきです。しかし、賃貸借契約書において、このような通常損耗についても賃借人が負担するという特約が設けられていることが、よくあります。
では、このような特約がある場合には、通常損耗についても、賃借人が負担しなければならないのでしょうか。

裁判所の判断基準

この点について、裁判所の判断によれば、こうした特約があるからといって、どのような場合でも通常損耗や通常の劣化を賃借人が全て負担しなければならない、ということにはなりません。

【裁判所の判断基準】

  • 賃借人が負担することになる損耗の範囲について、賃貸者契約書事態に具体的に明記されている

または

  • 賃貸人が口頭により説明し、賃借人がその旨を明確に認識している

場合に限って、その特約により賃借人が原状回復義務を負う。

したがって、この裁判所の基準によれば、「原状回復義務は賃借人が負う」とか「通常損耗についても賃借人が原状回復義務を負う」といった抽象的な内容の特約については、効力がないということになります。
これは、要するに、賃借人が負う原状回復の範囲が明確に定められ、賃借人がその内容を明確に理解していると認められなければ、賃借人にこれを義務付けることはできないということです。

原状回復についてのガイドライン

国土交通省は、賃貸マンションやアパートでの退去時における原状回復をめぐるトラブルを避けるため、ガイドラインを設けています。
このガイドラインには、原状回復費用の負担についての具体例や経過年数による減価などが詳しく載せられているので、個別の事例については、このガイドラインを参考にしてください。

【原状回復をめぐるトラブルとガイドライン-国土交通省】
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/torikumi/honbun2.pdf