不動産・建築トラブル

共有不動産の分割

共有不動産の分割

土地や建物といった不動産は、単独でしか所有できないわけではなく、複数人が共同で所有者になることができます。このような所有の状態を「共有」といい、その共有の対象となっている物のことを「共有物」と呼びます。
そして、共有者は、その共有物の共有状態を終了させたい時には、共有物の分割を請求することができます。
ここでは、土地や建物といった不動産が共有物となっている場合に、その共有不動産を共有者の間で分割しようとすると、どのように分割することになるのかについて説明します。

共有状態の発生

土地や建物といった不動産について、複数人で購入した場合や、複数の相続人で相続により不動産を取得した場合においては、その不動産については「共有」状態となります。

【共有の具体例】

①1000万円の土地について、父親が600万円、子どもが400万円を出して購入した場合は、父親が6/10、子どもが4/10の割合で、その土地を共有する。

②父親の土地を2人の子どもが共同相続した場合、子ども2人が1/2ずつの割合で、その土地を共有する。

共有持分

「共有持分」とは、共有者それぞれが、その共有物について持っている所有権の割合のことをいいます。
例えば、上記の具体例では、①における共有持分は、父親が6/10で長男が4/10となり、②においては、2人の子どもはどちらも1/2ずつの共有持分を取得します。

【知っておきたい】

共有持分は、あくまでも「割合」そのもののことをいいます。
ですので、たとえば100㎡の土地に1/2の共有持分を持っているとすると、それは、その土地全体について1/2の割合の権利を持っていることを表しているに過ぎません。
つまり、その100㎡の土地の1/2である50㎡の土地部分を所有しているということではありませんので、この点については注意が必要です。

共有物の分割

共有不動産の共有者は、その共有となっている不動産について、そのままの状態で保有しておくことも可能です。
しかし、共有状態のままだと、実際には様々な不都合が生じる場合があります。
そこで、共有者には、この不動産の共有状態を解消するために、上記共有持分の「割合」に基づいて、共有物を分割することを請求する権利が認められています。これを「共有物分割請求権」といいます。
この共有物分割請求は、いつでも他の共有者に対して、自由に行なうことができます。
そして、共有者は、この共有物分割請求をすることによって、自分の共有持分について、その持分割合に応じた土地やお金に変えることができるようになります。

分割の方法

このように、共有物を分割するためには、他の共有者に対して、共有物分割請求をすることになります。
その場合、まずは共有者全員での話し合いにより、分割をします。共有者の間では話がまとまらない場合には、裁判所へ共有物分割訴訟を提起することになります。

協議による分割

まずは、その不動産の共有者全員に対して、共有物分割請求をします。その上で、共有者全員による話し合いによって、①そもそもこの不動産を分割するかどうかを決めることになります。この時、共有者の1人でも反対したら、分割はできません。
そして、全員が分割することに賛成したら、次は②どのように分割するかという分割方法について、決めなければなりません。どのような方法で分割するのかについては、後述する【裁判上の分割】方法による必要はなく、自分たちで決めることができるので、共有者の間での話し合いにより、自由に決定します。ただ、この場合も、①の場合と同様に、共有者全員が同意しなければ、その分割方法での分割はできません。

【知っておきたい】

なお、注意点として、次のことを覚えておきましょう。
共有者の一部の人が、その人の共有持分の割合よりも多くの物やお金をもらうと、贈与税を課せられることがあります。

裁判上の分割

共有者の間での協議では話がまとまらない場合は、訴訟により共有物の分割を請求することになります。具体的には、共有者全員を訴訟の当事者として、裁判所に共有物分割訴訟を起こします。
共有物分割訴訟が提起されると、裁判所が共有物の分割方法を決めることになります。その場合の分割方法には、以下で説明するように、現物分割、代金分割、価格賠償の3つの種類があります。

現物分割

現物分割とは、その共有物そのものを分ける分割方法のことです。

【現物分割の具体例】

例えば、AとBが、100㎡の土地を6/10と4/10の割合で、共有しているとします。
この場合に、この土地を60㎡と40㎡の2つの土地に分けた上で、Aが60㎡の土地を受け取り、Bが40㎡の土地を受け取ります。
これが現物分割です。

ちなみに、共有物の分割においては、この現物分割の方法によることが原則とされています。

代金分割

代金分割とは、共有物を競売にかけ、その売却代金を共有者で分けるという分割方法のことをいいます。
共有物の分割は、上記の通り原則として現物分割によるのですが、次の場合には、裁判所はこの代金分割を行なうことができます。

【代金分割ができる場合】

①現物分割ができないとき

   または

②現物分割をすると、その共有物の価値が著しく損なわれてしまうとき

①現物分割ができないときとは、たとえば、共有物が自動車や建物の場合など、そもそも物理的に現物分割できない場合をいいます。
次に、②現物分割をすると、その共有物の価値が著しく損なわれる場合とは、次のようなケースが想定できます。
たとえば、共有物となっている土地がもともと狭い土地である場合、この土地を現物分割すると、分割した後の土地が極めて狭い土地になってしまい、その土地の利用が難しくなってしまいます。ですので、このような場合は、現物分割によりその土地の価値が著しく失われてしまうといえます。

できれば競売よりも任意売却で

共有物分割訴訟を提起された裁判所が、分割は代金分割によるべきだと判断した場合、裁判所は代金分割によって分割しなさいという判決を出した上で、共有物を競売にかける手続きを進めていきます。

ただ、ここで注意点があります。この競売手続によると、競売費用がかかる上、土地の本来の時価額よりも安い価格で落札される可能性も高いです。そのため、共有物の売却金額が安くなってしまうので、いずれの共有者にとっても経済的なメリットは期待できません。そこで、競売によるのではなく、任意売却(「不動産の任意売却」を参照)という通常の売却方法で売り、その売却代金を分割するというやり方を選んだ方が、メリットは大きいでしょう。
しかし、裁判所から、代金分割によるべきだという「判決」が下されてしまうと、競売という手続きでしか売却できません。
そこで、共有物分割訴訟における判決に至る前段階の和解協議の中で、共有者全員でよく話し合い、任意売却で売ることに合意できるように努め、判決ではなく和解で訴訟を終了させられるよう行動することをおすすめします。

価格賠償

価格賠償という分割方法には、2つの種類があり、それが全面的価格賠償と呼ばれるものと一部価格賠償と呼ばれるものです。

全面的価格賠償

全面的価格賠償とは、共有者の1人が他の共有者の持ち分を全てもらう代わりに、その分の対価を他の共有者に支払う分割方法のことをいいます。
少しわかりにくいので、具体例にて説明します。

【全面的価格賠償の具体例】

  • AとBが、それぞれ1/2ずつの持分割合で土地を共有
  • その共有の土地は、100㎡の広さで、価格は1000万円
  • さらに、この共有の土地の上に、Aの単独所有の家が建っている

この場合、全面的価格賠償という方法によると、どのように分割するのか?

まず、仮に、この土地を現物分割したり代金分割という土地を競売で売却する方法をとるとします。
しかし、この土地を取得した人は、この土地の上に共有者の一人であるAの建物が建っている以上、土地を自由に使用することが困難となってしまいます。ですので、この場合、現物分割や代金分割は、合理的な分割方法とはいえません。
そこで、このような場合には、まず、建物を単独所有するAが、その敷地である土地についても単独で取得します。その代わりに、Aは、他の共有者Bに対して、その持分価格に相当する金銭(1000万円×1/2=500万円)を支払うという分割を行なうことで、合理的でかつAとBにとって公平な結果を導くことができます。
このように行なう分割のことを、全面的価格賠償といいます。

全部価格賠償が認められるのはどのような場合?

ただ、この分割方法は、実は民法には規定がありません。これは、判例によって、特定の場合にだけ認められてきた分割方法なので、いつでもできるわけではないのです。
では、どのような場合に、全面的価格賠償という方法により、共有物を分割できるのでしょうか。
この点について、判例は、その各事案において全面的価格賠償を利用できるかどうかは、様々な事情を考慮して決めるとしています。

〜特に重視されるのは支払い能力〜

ただ、その考慮する諸事情の中で、裁判所が特に重視しているのが、「共有物を単独でもらう人に、他の共有者に対するお金を支払う能力があるかどうか」という点です。これはつまり、共有物を単独でもらいたいと希望する人が、その共有物をもらう代わりに、他の共有者にその対価を支払うだけのお金がなければ、全面的価格賠償の方法はとれないということです。
例えば、上の具体例の場合では、次のようになります。
Aが建物の敷地である共有土地の単独取得を希望したとしても、他の共有者であるBに賠償すべき500万円を払うお金がなければ、この価格賠償という方法は認められません。したがって、Aが土地を価格賠償の方法で単独で取得したいと望む場合には、この500万円を支払うだけの貯金があることを証明する必要があります。

一部価格賠償

一部価格賠償とは、共有物を現物分割した際に価値に過不足が生じる場合、不足する物を取得する共有者に対して、他の共有者がその不足価格分を金銭で支払ってその過不足を解消させるという分割方法です。

【一部価格賠償の具体例】

  • 2人の人が、それぞれ1/2ずつの持分割合で土地を共有
  • その共有の土地は、広さが100㎡
  • この土地を50㎡ずつ2つの土地に分けて、それぞれが取得する
  • もっとも、分けた2つの土地は、1つが南向きの土地で、もう一つが北向きの土地

この場合、一部価格賠償によると、どのように分割するのか?

この場合、まず、ふたりがそれぞれ取得する土地は、どちらも50㎡の広さのものなので、同じ価値のようにも思えますが、そうではありません。
一般的には、北向きの土地よりも南向きの土地の方が、価格が高いことが通常です。
そこで、このような場合には、南向きの土地を取得する人が、北向きの土地を取得する人に対して、その差額に相当するお金を支払います。このように分割することを一部価格賠償といいます。