初めての相続・遺言

自分の財産の帰属を決める方法

自分の財産の帰属を決める方法

あまり考えたくはないと思いますが、人はいつか必ず自分自身の相続という場面に直面します。 相続の場面においては、生前に自分の意思を相続に反映させようと積極的に対策しなかった場合、自分の持っている財産は、法律にしたがって画一的に相続人(妻や子供など)に分けられてしまいます。
しかし、自分が人生の中で努力をして得た財産だからこそ、家族や親族または知人の中でも、今まで自分によくしてくれた人に優先的に多く渡したいと思うのは、人情としては当然でしょう。終活という言葉が一般化したのも、「自分のことは最後まで全て自分で決めたい」という価値観が、社会において一定の支持を得るようになった表れかと思います。

では、相続において特に問題となる財産の帰属先や財産の内容について、自分の意思を反映させる方法には、どのようなものがあるのでしょうか。
ここで考えられるものとしては、遺言による方法と、贈与による方法があります。

遺言による方法

まず、1つ目の方法として、生前に遺言書を作成し、そこに自分の希望を書き示すことにより、自分が亡くなった後に自分の財産をどのようにするのかを決めることができます。例えば、「相続人の間で、何を誰にどのような割合で分けて欲しい」と相続で分配する割合を指定する事もできますし、「この財産をこの人にあげる」という指定をすることもできます。
遺言は、本人の意思を相続に反映させるために認められている制度ですので、相続の場面においては、遺言書が残されている以上、原則として遺言書に書かれている内容が優先されます。

遺贈について

遺贈とは、遺言によって自分の財産を無償で他の人に譲り渡すことをいいます。例えば、「私の持っている車を〜に遺贈する」と遺言書に書くことになります。
このように、遺贈は遺言によってなされるので、一見すると相続と同じように見えますが、実は相続とは異なります。相続は、自分の相続人(妻や子供などの家族)だけがその財産を受け取ることができますが、遺贈であれば、全く赤の他人である第三者も財産を受け取ることができます。ですので、遺贈は、相続人以外でお世話になった人に何かを残したいと思った時に、特に利用を検討する意義があります。

なお、遺贈は、下記の贈与とは異なり、財産をあげる人と受け取る人の意思の合致が必要な契約ではなく、自分一人で書くことができる遺言でなされるものですので(これを単独行為といいます)、受け取る人と話し合う必要はありません。

特定遺贈と包括遺贈

遺贈には2つの種類があり、それが特定遺贈と包括遺贈です。
特定遺贈とは、遺言により、ある特定の財産を他の人に譲り渡すことをいいます。例えば、「〜に自宅の建物を遺贈する」というような遺言がこれに該当します。 他方、包括遺贈とは、遺言により、本人の財産の一定割合を譲り渡すことをいいます。具体的には、「〜に自己の財産の3分の1を遺贈する」というような遺言がこれに当てはまります。

遺言によるメリット

遺言・遺贈には、贈与によって財産を譲り渡す場合と比べて、次のようなメリットがあります。

①遺言の内容は秘密にしておける

遺言の場合、自分だけで相続の内容や遺贈の内容を決定し、遺言書を作成することができます。ですので、どのような遺言を書いたのか、自身が亡くなるまで誰にも教えず内緒にしておけます。
他方、贈与による場合には、必ず財産を受け取る人と贈与の合意をしなければなりませんので、どうしても自分以外の人に知られやすくなります。

②撤回が可能

先に述べたとおり、遺言は、本人の生前の最終意思を相続に反映させようという本人の意思の尊重を目的とした制度です。とすれば、一度遺言書を作った後に本人の意思が変わったのであれば、残すべき遺言も当然変更すべきですので、遺言の内容は何度でも変更可能です。そして、本人の最終意思の表れといえる最後に作成した遺言が、優先されます。
他方、贈与については、あくまで契約ですので、財産をあげる側が一度決めたことを勝手に変更することはできません(ただし、死因贈与については、性質が遺贈に似ているという理由から、原則として撤回可能です)。

贈与による方法

次に、贈与という方法により、自らの財産を特定の人に渡すこともできます。贈与とは、他の人に対して、無償で自分の財産を譲り渡すことをいいます。
この贈与は法的には契約ですので、財産をあげたいと思う相手との間に、「私の財産をあげます」「ありがとう、もらいます」という意思の合致が必要になります。
贈与は、大きく分類すると生前贈与と死因贈与に分かれますが、生前に自分の財産をどうするか決めたいという場面では、このどちらも利用されます。

生前贈与

生前贈与とは、自分が生きている時に、他の人に対して、無償で財産を譲り渡すことをいいます。一般的に贈与というフレーズはこの生前贈与のことを指しますが、後述する死因贈与との対比で「生前」贈与と呼ばれます。
この生前贈与により、自分の不動産や車、お金などの財産を、自分が渡したい人に生前にあげることができます。

死因贈与

死因贈与とは、財産をあげる人が死亡した時点で、財産の所有者が贈与を受ける人に変わる贈与のことをいいます。わかりやすく言えば、例えば「私が死んだらその時にこの100万円をあげるよ」という契約をする贈与契約のことです。

贈与による場合のメリット

遺言・遺贈により財産の帰属を決める場合と比べて、贈与により財産を譲り渡すことには、次のようなメリットがあります。

①様式が厳格でない

上記の通り、贈与は契約ですので、財産をあげたいと思う人と財産をもらいたいと思う人の間で、「財産をあげます」「ありがとう、もらいます」という意思が合致すれば、それだけで成立します。意思の合致だけで成立するということは、もっと言ってしまえば、実は契約書すら必要ありません。
その点、遺言・遺贈による場合には、その様式に厳格な決まりがありますので、決められた様式に従っていなかった場合、それだけで遺言が無効になってしまうことがあります。
もっとも、いくら法的には契約書の必要ない贈与といえども、自分が亡くなった後に残された人たちがもめることがないように、きちんと契約書を作成しておくことを強くおすすめします。

②放棄されない

贈与については、生前贈与では「あげます」「ありがとう、もらいます」という契約が成立した瞬間に、死因贈与ではあげた人が亡くなった瞬間に、その財産がもらった人のものになります。財産をもらう人としても、それをもらうことを了承して贈与の契約をしているわけですから、それで不都合はないはずです。

しかし、遺言・遺贈による場合には、受け取る側としては受け取らずに放棄することが可能です。なぜなら、遺言の内容は、遺言を書いた人が亡くなるまで秘密にされていることが通常ですから、受け取る側としては遺言の中身については知りませんし、また、遺言で財産の帰属を指定している場合は、ある特定のプラス財産だけでなくマイナス財産まで受け取らなければならないように指定してある場合も多々あります。ですので、受け取る側が不測の不利益を被らなくてもいいように、受け取るも放棄するも自由になっているわけです。
そうであるとすれば、贈与の方が、契約が成立するならばより本人の意思に沿う結果になるとも言えます。