遺言が無効になる場合
もっとも、例外的に、その遺言が無効になる場合があります。遺言が無効であるとすれば、その遺言には相続人を縛る効果はありませんから、そのような場合であれば、「この遺言に従う必要はない」という主張ができることになります。
では、どのような場合に遺言は無効となってしまうのでしょか。
この点について、そもそも、遺言が有効となるためには、①法的に遺言をすることができる人が作っていること(実質的な要件)と②遺言の作り方のルールに従っていること(形式的な要件)が必要となりますので、この①か②を満たしていない場合には、無効な遺言であるといえます。
①遺言をすることができる人
民法は、15歳以上で、かつ、遺言能力がある人については、遺言をすることができるとしています。ここでいう遺言能力とは、遺言の内容を理解し判断できる能力のことをいいます。
認知症がある場合に特に問題となる
この遺言能力があったのかが問題となる代表的なケースとしては、本人に認知症の疑いがあり、遺言の内容を理解して作ったと言えるのかが判断しにくい場合などが挙げられます。このような場合であれば、「遺言を作った当時、本人はすでに認知症になっていたから、その時すでに遺言能力がなく、この遺言は無効だ」と主張することが考えられるわけです。
「認知症=遺言能力なし」ではない
認知症であるかどうかは、医師の診断により決定されるものですが、遺言を作成した当時の医師の「認知症である」という診断書さえあればそれで答えが出るという単純な問題ではありません。なぜなら、仮に医師により認知症であるという診断がなされていたとしても、それにより直ちに遺言能力がないということにはならないからです。認知症であったとしても、遺言の内容を理解して判断できるだけの能力があったと認定できれば遺言能力は認められます(認知症であることは、その考慮要素の一つにはなります)。
結局のところ、遺言能力があったのかを判断するためには、「遺言を作った時に遺言の内容を理解し判断できたのか」を事案ごとに個別に検討するしかありません。しかし、その判断は大変難しく、介護認定を受けたときの診断書、介護施設に入所していたときの言動の記録、遺言当時の遺言者の状態をよく知る者の証言などを参考に総合的に判断されることになります。