初めての相続・遺言

遺産の分割

遺産の分割

亡くなった人に財産が残されている場合、相続人の間でその財産を分配しなければなりません。これを遺産分割といいます。遺産分割では、「誰が、どの財産を、どれだけの割合でもらうのか」を決めなければなりません。
この遺産分割をするにあたっては、故人の遺言が残されている場合には、その遺言通りに財産を分配することになります(もっとも遺留分の問題が生じる場合もあります)。

※遺留分については、「遺留分とは」を参照。

他方、遺言が残されていない場合には、相続人間で話し合い、遺産分割をすることになります。これを遺産分割協議といいます。

遺産分割協議の開始

故人の遺言がない場合、「相続人の調査」と「相続財産の調査」が終わりしだい、遺産分割協議を速やかに開始します。

遺産分割協議では全員参加が絶対条件

遺産分割協議では、相続人全員が必ず出席し、相続財産について、誰がどの財産をどれだけの割合でもらうのかを話し合います。この協議には、相続人の全員の出席が絶対条件になっていて、必要メンバーの誰か一人でも欠けてしまうと、せっかく話し合いがまとまっても、その協議は全て無効になってしまいます。ですので、誰が相続人になるのかについては、慎重に調査をした上で、協議を始めなければなりません。
もっとも、協議の方法として、同じ場所に全員が集まって会議をしなければならないわけではないので、スカイプやテレビ会議、メール、文書の持ち回りで協議を行うことも可能です。

遺産分割協議への参加者は誰?

遺産分割協議に参加しなければならないのは、原則としては、相続人全員です。
ただ、例外的に、相続人以外が出席しなければならない場合もあります。相続人以外で出席しなければならないのは、①故人から包括遺贈を受けた人と、②相続人から相続分を譲り受けた人です。なぜなら、この①と②の人については、遺産の分割に際しては、どちらも相続人と同じような地位にあるからです。

話がまとまったら遺産分割協議書を作成

遺産分割協議においては、参加者全員が、「誰が、どの財産を、どれだけの割合でもらうのか」について、同意をしなければなりません。一人でも反対者がいる場合には、その遺産分割協議は成立しません。
参加者全員が協議の内容に同意できたのならば、遺産分割協議書を作成します。遺産分割協議書とは、遺産分割協議により決まった内容を記載しておくものです。具体的には、「亡くなった人についての詳細」、「相続人についての詳細」、「誰がどの財産をどれくらいの割合で相続するのか」という3点を記載します。
また、遺産分割協議書には、参加者全員の署名と押印が必要となりますが、参加者全員分の冊数を作らなければならないので、少し手間はかかります。しかし、署名については必ず自署するようにして下さい。
なお、どうしても協議がまとまらなかった場合には、下記の通り、家庭裁判所での協議(遺産分割調停)に移行させることになります。

どのような割合で分割するの?

では、遺産分割協議においては、どのような割合で遺産を分けることになるのでしょうか。
この点について、基本的には、遺言でその分割する割合が指定されている場合であれば、その遺言の指示に従います。
しかし、実際には遺言で分割するための割合が指定されていることは、多くありません。そこで、法律は、「誰がどれだけの割合で遺産をもらえるのか」をきちんと決めています。この法律で指定されている割合のことを法定相続分といいます。

法定相続分

遺産分割協議においては、この法定相続分を参考にして、どのような割合で分割するのかを決めることになります。
では、法定相続分については、法律ではどのように定められているのでしょうか。
まず、「相続人の範囲・調査」で説明した相続人になる順序のルールを思い出してください。

【ポイント!】 相続人になる順序のルール

①配偶者は常に相続人
②子ども③直系尊属④兄弟姉妹は最先順位の人だけが相続人
(EX.②子どもがいる場合は②子どもが相続人。②子どもがいない場合は③直系尊属が相続人)

法定相続分については、このルールに合わせて、亡くなった人の①配偶者、②子ども、③直系尊属、④兄弟姉妹という①〜④の相続人がどのように組み合わさるのかを場合分けして、それぞれが相続する割合が定められています。具体的には、①配偶者と②子どもが相続人になるパターン、①配偶者と③直系尊属が相続人になるパターン、①配偶者と④兄弟姉妹が相続人になるパターンというように、3つの場合に分けて規定されています。そこで、以下では、この場合分けにしたがって説明します。

相続人が配偶者と子どもの場合

どのような場合でも最も優先的に相続人となるのは、亡くなった人の配偶者と子どもです。そこで、まずは配偶者と子どもが相続人となる場合の法定相続分から、見ていきましょう。
この場合の法定相続分は、「配偶者が2分の1、子どもが2分の1」と定められています。
もっとも、子どもが複数人いる場合には、子どもについては均等割となります。つまり、例えば子どもが2人いる場合には、法定相続分である2分の1を均等割して(子ども2人だから2で割るわけです)、「2分の1÷2=4分の1」となります。よって、子ども1人につき、法定相続分は4分の1となるわけです。
文章だけではなかなか理解しにくいかと思うので、以下のとおり、表および図にします。

【「配偶者と子ども」が相続人の場合の法定相続分】

配偶者 子ども
法定相続分

2分の1

2分の1
※複数人いる場合は均等割

相続人が配偶者と直系尊属の場合

2番目に優先的に相続人になるパターンとして考えられるのは、子どもはいないが、親が未だ健在の場合です。配偶者は常に相続人になりますので、この場合に相続人となるのは、配偶者と親になります(ちなみに、直系尊属とは、親や祖父母のことをいいます)。
この場合の法定相続分は、「配偶者が3分の2、直系尊属が3分の1」と決められています。
もっとも、この場合も子どもが相続人になる場合と同様に、直近の直系尊属が複数いる場合には、均等割になります。具体的には、亡くなった人の父母が共に健在の場合には、法定相続分である3分の1を均等割して(夫婦で2人だから2で割ります)、「3分の1÷2=6分の1」となります。よって、父母の法定相続分はそれぞれ6分の1ずつとなるわけです。
このパターンについても、以下のとおり、表および図で見てみましょう。

【「配偶者と直系尊属」が相続人の場合の法定相続分】

配偶者 直系尊属
法定相続分

3分の2

3分の1
※複数人いる場合は均等割

相続人が配偶者と兄弟姉妹の場合

最後に、子どもも直系尊属もいない場合には、亡くなった人の兄弟姉妹が相続人になります。とすると、配偶者が常に相続人になる以上、この場合の相続人は、配偶者と兄弟姉妹ということになります。
この場合の法定相続分については、「配偶者が4分の3、兄弟姉妹が4分の1」となっています。
なお、今までと同様に、兄弟姉妹が複数人いる場合には、この4分の1という法定相続分を均等割することになります。具体的に考えてみると、亡くなった人の兄弟姉妹が1人の場合には、兄弟姉妹の人の法定相続分は、「4分の1」のままです。しかし、兄弟姉妹が2人の場合には、4分の1を2で均等割することになるので、「4分の1÷2=8分の1」となります。
この場合を図と表で示すと以下のようになります。

【「配偶者と兄弟姉妹」が相続人の場合の法定相続分】

配偶者 兄弟姉妹
法定相続分

4分の3

4分の1
※複数人いる場合は均等割

法定相続分とは異なる割合で分けてもいいの?

もっとも、遺産分割協議における法定相続分は、「絶対にこの割合で遺産を分けなければいけない」という絶対的な基準ではなく、あくまでこれくらいが法律上の相場だという目安値としての存在となります。ですので、遺産分割協議の参加者全員が、法定相続分とは異なる割合での分割に同意している場合には、その合意内容に沿った分割が可能です。例えば、「一人だけが全ての財産を相続する」という協議内容であっても、全員がそれに同意しているのであれば、それで構わないわけです。

遺産の4つの分割方法

相続人間でどのような割合で遺産を分け合うかを決めたら、次は実際に遺産を分割することになります。この際、どのような方法で遺産を分割するのかという遺産分割の方法については、次の4つの種類があります。

現物分割

現物分割とは、分割協議で決めた分割の割合に基づいて、個々の遺産そのものを分ける方法をいいます。
例えば、遺産として預金1000万円があり、相続人が2人いて、遺産をそれぞれ2分の1ずつもらうと決めたとします。その場合、相続人は、その預金1000万円を2分の1ずつに分割し、預金500万円ずつを受け取ることになります。

代償分割

代償分割とは、1人の相続人がある遺産をもらう代わりに、他の相続人にお金を渡す分割方法のことをいいます。これは、遺産の中に土地などの不動産のような非常に高価で、かつ、分割しにくいものがあり、それをもらった相続人がどうしても得をしてしまう場合に、その得をした部分について、お金を支払うことで帳尻を合わせる趣旨で用いられることが多いです。

例えば、遺産として、1000万円の土地と500万円の預金が残されていて、2人の相続人がそれを2分の1ずつで分割しようと話し合って決めた場合を考えてみましょう。この場合に、一方が1000万円の土地をもらい、他方が預金500万円をもらうとすると、土地を受け取る方が250万円分の得をしていることになります。ですので、土地を受け取る人は、預金を受け取る人に、代わりに250万円を支払うことで、2分の1ずつの割合で円満に分割できたといえる状態にするわけです。

換価分割

換価分割とは、遺産を売却した上で、その売却代金を分割する方法のことをいいます。
例えば、2000万円の土地が残されていて、2人の相続人が2分の1ずつの割合で分割すると決まった場合を考えます。この場合、土地を売却し、2000万円の現金へと変え、相続人それぞれが1000万円の現金を受け取ることにより、2分の1ずつの割合での円満な分割ができるわけです。
換価分割は、遺産を現金という「分けられるもの」に変えるので、決定した分割割合できっちり分けられるようになるという大きなメリットがあります。
他方、相続人に、故人の大事にしていた遺産を売却したくないという心理的な抵抗がある場合も多いですし、売却に思わぬ手数料がかかってしまい、遺産の金額が目減りする場合もありますので、決して万能な分割方法というわけではありません。

共有分割

共有分割とは、ある遺産を相続人間で共有にする分割方法です。これは、不動産等の遺産について、様々な事情により上記の他の分割方法が取れない場合に用いられるものです。
ただ、共有にするということは、所有者が2人以上になるわけですので、例えばその不動産を売ったりする場合には、その所有者全員の同意が必要になります。となると、自分1人の意思でその財産をどうするかが決められなくなってしまうため、後々まで相続人間で遺産のことでもめる原因となってしまうことがあります。
ですので、避けることができるのであれば、この共有分割については避けた方がよいですし、やむを得ず共有分割をする場合には、その後に共有となったその財産について、共有物の分割を行なうことをおすすめします。

※共有物の分割については、「何をもらうかでもめている場合」を参照。

遺産分割協議が成立しない場合

もっとも、相続人それぞれが自己の主張を譲らず、協議では話がまとまらない場合もあります。このように遺産分割協議が成立しなかった時には、相続人は家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることになります。そして、その遺産分割調停でも話がまとまらなかった場合には、最終的な手段として遺産分割審判により遺産の分割を決定します。

遺産分割調停

遺産分割調停とは、遺産分割協議が成立しなかった場合に、家庭裁判所に間に入ってもらった上で、さらに協議をすることをいいます。相続人だけで話し合いをしているよりも、第三者が介入してくれるので、話し合いがまとまりやすくなります。
もっとも、この遺産分割調停は、家庭裁判所にて行われますが、これは裁判ではなくあくまで話し合いですので、強制力のある答えが出るわけではありません。ですので、遺産分割調停においても、結局話し合いがまとまらず、徒労に終わってしまうこともあります。

遺産分割審判

遺産分割調停において、話し合いがまとまらなかった場合には、家庭裁判所での遺産分割審判に移行します。遺産分割審判は、今までおこなってきた話し合いとは異なり、裁判所が「このように遺産分割をしなさい」という判断を下します。この判断には強制力がありますので、相続人は必ず従わなければなりません。
なお、この遺産分割審判では、法律の規定にしたがって淡々と分割されますから、相続人の意思が反映された結果にならないことも多いです。ですので、この段階までもつれてしまう前に、相続人同士がお互いに譲り合いながらできる限り話し合いで解決することが、相続人にとっても亡くなった人にとっても、望ましい結果となるのではないでしょうか。