民法改正・消滅時効について
以前も説明しましたように、平成29年に国会において民法の一部を改正する法律案が可決成立し、民法(債権法)が大きく改正されることになりました。この改正民法は、平成32年4月1日に施行されることになりました。
そして、今回も、以前のコラムに引き続いて消滅時効に関する改正点について、説明していきたいと思います。今回は時効の中断について説明します。
現在の民法においては、ある事由(時効の中断事由をいいます)が発生した場合に、それまでの時効期間の経過が無意味のものとなり、その時効はその事由が終了した時から、また新たに進み始めるものとされております。これを時効の中断といいます。
この点に関して、催告や承認を除く中断の事由(裁判上の請求や強制執行など)については、手続の申立てを行うことなどによって時効が中断するとされておりますが(なお、催告というのは、債務の弁済を求めることで、6か月以内に裁判上の請求などをしないと中断の効力がなくなってしまいます。また、承認というのは、権利の存在を知っていると表示することです)、他方で、一定の事由によりその手続が途中で終了した場合には、遡って中断の効力は生じないとされています。ところが、裁判上の請求などについては、「催告」としての効力を認め、その手続の終了時から6か月以内に現行法の定める手続(裁判上の請求など)を行えば、時効は中断するとされております(裁判例)。
現行法においては、以上のような扱いとなっておりますところ、改正民法においては、その点が明文化され、その取扱が明確化されました。
また、改正民法においては、ある事由によって時効の完成が妨げられるという効力を時効の「完成猶予」ということにし、新たな時効が進行を始めるという効力を時効の「更新」ということにしております。現行民法においては、その両効力をいずれも「中断」という同一の用語で表わしていたのですが、それをわかりやすくするために二つに分けることになりました。
それでは、それぞれについて具体的に説明をしていきます。
まず、「完成猶予」というのは、完成猶予事由が生じれば時効は完成せず、その完成猶予事由が終了すれば(訴えの取り下げなど、手続の取下げ等)、その終了の時から6か月間時効は完成しないことをいいます。
そして、その完成猶予事由は、裁判上の請求や強制執行、仮差押、催告などがあります。その他にも、協議による時効の完成猶予というものが新設されました。
この協議による時効の完成猶予というのは、権利についての協議を行う旨の合意が書面でなされたときに、原則1年間時効が完成しないことを認めるものです。
1年より短い期間の合意の場合は、その合意の期間中、時効が完成しないことになります。また、1年より長い期間の合意の場合は、1年となります。但し、当事者の一方から協議の続行を拒絶する旨の通知が書面でなされたときは、通知の時から6か月が経過するまでとなります。
また、改めて合意をすることでさらに時効の完成を猶予させることができますが、その期間は1年を超えることができず、しかも通算で5年を超えることはできません。
なお、上記の「催告」による完成猶予期間中に、協議による時効の完成猶予はできませんし、また、協議による時効の完成猶予期間中に「催告」をしても、それによる完成猶予はないので注意が必要となります。
次に、「更新」は、更新事由が生じれば、その時から新たに時効の進行が開始されることになるものをいいます。例えば、裁判上の請求等により権利が確定したとき、強制執行等の手続が終了したとき、承認があったときなどです。このような場合には、その時から新たに(ゼロから)時効の進行が開始することになります。
以上のように、民法の改正により消滅時効についても改正されることになりますが、今回説明したところはその一部となります。詳細な説明や他の改正部分についての説明を希望される方、時効に関する問題でお困りの方は一度ご相談ください。