相続分の放棄について
今回は、相続に関して、相続分の放棄について説明したいと思います。
まず、そもそも相続分の放棄というのは、相続人の地位を放棄するものではなく、遺産分割において自己の取得分がないものとする旨の一方的な意思の表明と考えられております(一方で、遺産に対する共有持分権を放棄する旨の意思の表明と考える立場もあります。)。
この相続分の放棄は、相続が開始してから遺産分割までの間であればいつでも可能であり、方式は問いません。
また、相続分の放棄をすると、放棄された相続分はその他の共同相続人に、相続分に応じて帰属することになります(具体的な説明はのちほど)。一方で、相続分の放棄をしても、相続人としての地位を失うことはないため、相続債務の負担義務を免れることはできません。
この相続分の放棄は、相続放棄とは異なりますので、注意が必要です。
相続放棄は、被相続人が亡くなったことにより発生した包括承継(被相続人の権利義務を全面的に引き継ぐこと)の効果を全面的に拒否する意思表示です。この相続放棄は、放棄を希望する相続人が、自己のために相続が開始したことを知ったときから3か月以内に家庭裁判所にその旨の申述をしなければならないとされています(民法915条1項)。
相続放棄をすると、放棄した相続人は、その相続に関しては最初から相続人とならなかったものとされます(民法939条)。そのため、放棄した人は、相続開始の時に相続人として存在しなかったことから、他に相続人がいる場合、その共同相続人の相続分は変ることになります。
例えば、被相続人甲に配偶者であるAと両者の子であるB・C・Dがいたとする場合、本来の相続分はAが2分の1、B・C・Dがそれぞれ6分の1ですが、Aが相続放棄をすると、B・C・Dの相続分はそれぞれ3分の1となります。一方で、Bが相続放棄をした場合、Aが2分の1、C・Dがそれぞれ4分の1となります。
他方、相続分の放棄における相続分の変動は、相続放棄の場合のそれと異なり、上記のとおり他の共同相続人の各相続分に応じて(正確には、相続分放棄をしなかった共同相続人の相続分立を算出し、それに基づいて)、配分することになります。
具体的には、上記の例でBが相続分の放棄をした場合、Bの相続分6分の1は以下のとおり配分されることになります。
●A、C、Dの相続分の比は、
1/2:1/6:1/6=3/6:1/6:1/6=3:1:1です。
●A、C、Dの相続分率は、
A=3/(3+1+1)=3/5
C、D=1/(3+1+1)=各1/5
●Bの相続分6分の1を上記相続分率で配分し、それぞれの元々持っていた相続分を加えると、
A=(3/5×1/6)+1/2=6/10
C、D=(1/5×1/6)+1/6=各2/10となります。
以上、今回は相続分の放棄について説明してきました。今回説明した点以外にも、相続分の放棄をする際には注意してもらいたい点がありますし、また、説明にもありましたように、相続分放棄の場合における各共同相続人の相続分の変動の計算がわかりにくいところもあります。相続分の放棄についてお困りの方、また、それに限らず相続に関してお困りの方は、当弁護士事務所までご相談ください。