相続させる遺言と登記
(1)被相続人が、「長男に甲不動産を相続させる。」という遺言を遺して亡くなった。
(2)長男は、甲不動産を自分名義にするため、戸籍等の必要書類を取り寄せていたところ、被相続人の妻がXから借金をしていたため、甲不動産について妻が有している法定相続分1/2をXから差し押さえられてしまった。
このような場合、長男とXとの優劣はどのようになるのでしょうか。
相続と登記は、いろんな場面で問題となりますが、最高裁は、不動産につき法定相続分での相続については登記なくして第3者に対抗できるとしています。これに対し、遺産分割の結果法定相続分を超える権利を取得した相続人は、その取得を登記なくして第3者に対抗できないとされています。
たとえば、設問の場合で、被相続人がなくなった後相続人で遺産の分割協議を行い、その結果長男が甲不動産を取得することになったものの、登記をしないままでいたところ、被相続人の妻の債権者であるXが甲不動産について妻の法定相続分である1/2を差し押さえてきたというケースの場合、長男は遺産分割協議の結果自らが取得した甲不動産について登記を得ていませんので、Xのほうが優先することになります。
さて、設問の場合のように遺言で「相続させる」と書かれている場合、先回ご説明しましたように、それは「遺産分割方法を指定」したものと解され、その遺産は、遺産分割協議を経ることなく、相続開始と同時に相続により当該相続人に直ちに承継されるところとなります。
したがって、「相続させる」遺言による権利の取得は、上記2の場合よりも1の場合に近く、最高裁は、法定相続分の相続の場合と本質において異なるところはないとして、登記なくしてその権利を第3者に対抗することができると判断しています(最高裁平成14年6月10日判決)。
最初の事例をこの最高裁判例にしたがって考えますと、長男は、甲不動産を「相続させる」という遺言により被相続人が死亡したときに直ちにその所有権を取得し、登記を得ていなくても妻の法定相続分を差し押さえたXに対抗することができる(Xの差押えに対して第3者異議の訴えを提起すれば勝訴できる)ことになります。
なお、遺言書に「相続させる」ではなく「遺贈する」と書かれていた場合には、登記が対抗要件になりますので、長男が登記を得る前に妻の債権者がその法定相続分を差し押さえてきた場合には長男が負けてしまいますのでで、地優位が必要です。いずれにしましても、トラブルが生じる前に遺言にしたがって早めに登記を済ませることをお勧めします。