相続させるという遺言
「私が死んだら自宅の土地・建物を長男○○に相続させる。」といった内容が書かれた遺言をよく目にします。今回は、このように「相続させる」という表現で書かれた遺言をどのように理解するのかについて、ご説明します。
この「相続させる」という趣旨を「遺贈する」という意味に理解する考え方もあります。
「遺贈」と解しますと、
(1)遺贈は遺言によって受遺者に財産権を与える遺言者の意思表示ですので、遺産分割協議を経ずに当該遺産の承継の効果が生じます。
(2)ただ、長男が自宅土地建物を自分の名義に登記するためには、他の相続人(遺言執行者がいるときは遺言執行者)と共同で登記の申請をする必要が生じます。
しかし、判例は、これを遺贈ではなく「遺産分割方法を指定したもの」と解しています。この理解の仕方によりますと、その遺言は遺言者が遺産をどのように分割するかという方法を指定したものとなりますので、相続人間で遺産分割協議をする必要が あり、その協議が成立するまでは当該遺産の承継の効果が生じないとも解されます(たとえば東京高裁昭和45年3月30日判決)。
これまでは、このような判例が多くみられましたが、最高裁平成3年4月19日 判決は、「相続させる」という遺言を遺産分割方法を指定されたものだと解したう えで、遺産分割協議を経ることなく死亡のときに直ちに相続により承継されると判断しました。遺産の分割方法が定められた以上他の共同相続人もこの遺言に拘束され、これと異なる遺産分割協議も審判もなし得ないものだからというのが、その理由です。
この最高裁判決に従いますと、長男は、遺言者が亡くなった時点で自宅の土地建物を取得することになり、相続登記も他の相続人や遺言執行者の協力を得ることなく自らで申請することができることになります。なお、他の相続人は、この遺言によってその有する遺留分を侵害されたときは、遺贈の場合と同様長男に対して遺留分減殺請求をすることができます。