商人間の売買
1 はじめに
今回は、会社や個人事業主(商法では「商人」と呼ばれています。「商人」には、会社も含まれます)が、同じく、商人から商品を購入した場合(典型的なものとしては、小売業者がメーカーや仲卸業者から商品を仕入れる場合です)、その商品に不備があった場合に、購入した買主は、売主に対してどのような請求ができるのか、お話したいと思います。
このような商人間の売買は、現在のビジネス社会において、日々刻々と無数に行われています。そのため、トラブルも多く、法的な規制が必要となる場面も出てきます。したがいまして、商人間の売買において、商品に不備があった場合、買主がどのような法的手段をとることができるのか、少しでも頭に入れておきましょう。
2 民法の規制
「購入した商品に不備がある場合」とは、民法では、「引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるとき」と書かれています。つまり、購入して受け取った商品が、契約の定めとは異なる種類のものであったり、契約で定められた品質を有していなかったり、契約で定めた数量より少なかったり(多かったり)する場合が、この民法の記載に当てはまります。
では、このように購入した商品に不備があった場合、民法上、どんな請求をすることができるのでしょうか。この点について、民法によると、買主は、「目的物の修補」、「代替物の引渡し」、「不足分の引渡し」を請求することができると規定されています。
「民法上」という書き方をしてしまうと堅苦しいですが、民法は、極めて当たり前のことを規定しています。
つまり、代替できる商品であれば、種類の異なる商品や品質の劣る商品に代えて、代替となる商品を改めて引き渡すよう請求することができ、代替できない商品(不動産など)であれば、代わりの商品を引き渡すわけにはいきませんので、商品の不備を修補するよう請求することができるのです。また、不足分があれば、不足している分を追加で引き渡すよう請求できます。このような請求は、3つまとめて「履行の追完」と呼ばれています。
そのほか、買主は、売主に対して商品の不備が原因で発生した損害の賠償を請求したり、売買契約を解除したりすることもできます。
3 民法上の期間制限
このように、商品に不備があった場合、買主は、売主に対して、様々な請求をすることができます。
しかしながら、売主にとってみれば、このような請求は非常に困ったものです。自信を持って提供した商品に不備があるとして、買主からクレームをつけられ、その対応に追われるとすれば、誰も商品を売らなくなってしまうでしょう。そこで、商品の不備を理由とした請求をする場合、期間制限が設けられています。民法によると、その期間は、不備を知った日から1年とされています。つまり、商品を購入した後、不備を知ってから1年経つと、不備を理由とした請求はできなくなります。
買主が商品を受け取ってから不備に気づかないまま10年経過した場合も、不備を理由とした請求をすることはできなくなります。
4 商法上の検査通知義務及び期間制限
商売を行っている方々はお気づきかと思いますが、民法の定める期間はビジネスの世界では長すぎます。
売主が、商品を売った後10年間も、商品の不備を理由に責任追及されてしまうのは、あまりにも売主の責任が重すぎます。
そこで、ビジネスの世界の売買契約、つまり、商人間の売買契約においては、買主は、購入した商品を受け取ったら、「遅滞なく、その物を検査しなければならない。」とされています。そして、検査した結果、商品の不備を発見した場合は、「直ちに売主に対してその旨の通知を発しなければ、」商品の不備を理由とした請求をすることができなくなります。つまり、買主は、商品を受け取った後間もないうちにその商品を検査する必要があり(検査義務)、また、不備を発見したらすぐに売主に対してそのことを通知する必要がある(通知義務)のです。
この検査義務及び通知義務を怠ると、買主は、売主に対して、商品の不備を理由とした請求をすることができなくなるのです。仮に、受け取った後の検査で不備が発見できなくても、商品を受け取ってから6か月以内に不備を発見すれば、売主に対して発見後直ちに通知することで、商品の不備を理由とした請求をすることができます。しかし、商品を受け取ってから6か月が経過してしまうと、その後に不備を発見しても、売主に対して請求することはできなくなります。
5 まとめ
この問題は、これまで「売主の瑕疵担保責任」という言葉で語られてきました。
しかし、民法の改正に伴い、「瑕疵」という言葉は、法律上使われなくなりましたので、改めて、商人間の売買に焦点をあてて、瑕疵担保責任についてまとめてみました。
ビジネスの世界では、瑕疵担保責任の範囲や期間について契約で取り決められることも多く、ストレートに民法や商法が適用されることは少ないと思います。
しかし、契約で定められた瑕疵担保責任も、法律上の瑕疵担保責任をベースとしていますから、民法や商法が瑕疵担保責任についてどのように規定しているのか知ることは、契約を解釈する上でも、十分に生かされるかと思います。