内部統制システムについて

内部統制システムについて

1 はじめに

今回は、「内部統制システム」についてお話したいと思います。「内部統制システム」という言葉にあまり馴染みがない方も多いと思いますが、「内部統制システム」とは、簡単にいうと、会社の業務の適正を確保するために必要な体制のことを指します。

会社の事業規模が拡大すると、従業員が増えたり、オフィス・工場が増えたりして、役員(社長など)が自分で業務全体を監視することは現実的ではなくなることが多いでしょう。そういった場合に、役員の目の届かない業務であっても、その適正を確保するために構築された体制(=システム)のことを、「内部統制システム」と呼びます。

社長1人で管理できる業務の範囲にはどうしても限界がありますから、ある程度事業を拡大した会社であれば、おのずから問題となるものといえるでしょう。

2 内部統制システム構築義務

先ほど、内部統制システムとは、役員の目の届かない業務であっても、その適正を確保するために構築されたシステムであると説明しましたが、この「内部統制システム」を構築することが会社法上義務づけられる場合があります。
例えば、資本金が5億円以上か、もしくは、負債が200億円以上の会社であれば、内部統制システムを構築することが法的に義務づけられることになります。逆にいえば、そうではない会社では、あくまで会社法的には、内部統制システムを構築する法的義務はないということになります。

しかし、会社法上、内部統制システムを構築する義務がない会社であっても、内部統制システムを構築していないことにより、代表取締役などの役員の責任が追及されてしまう可能性も否定できません。
というのも、会社というのは、役員の目の届かない業務であっても、これによって収益を上げ、利益を得ているわけですから、当然、目の届かない業務に伴うリスクに対しても適切に管理する義務があると考えられており、したがって、適切なリスク管理体制を構築することは、当然期待されているものといえます。

そのため、リスク管理を目的とした内部統制システムが構築されていない場合に、構築されていないことが原因でリスクが顕在化し、会社に損害が生じた場合は、役員の法的責任が追及されてしまうことになるでしょう。
会社内に存在する経営上のリスクを分析し、そのリスクが顕在化することを未然に防ぐためのシステムを構築することは、ある意味、どの会社にも要求されていることといえます。

そのようなシステムが全く存在しない会社では、内部統制システム構築義務違反を理由に、役員の責任が追及されることになるでしょう。

3 内部統制システム運用義務

先ほどは、内部統制システム構築義務についてお話しましたが、内部統制システムを構築するだけでは不十分です。
というのも、その構築したシステムが適切に運用されなければ、業務の適正を確保するという内部統制システムの目的を達成することはできないからです。

したがって、内部統制システムを構築する際は、予定するシステムの仕組みだけに着目するのではなく、システムを構築した後に、それをどのように運用するのか、思惑どおりに運用できるのかという点も十分に考慮する必要があります。

当然、内部統制システムを構築したとしても、その運用が適切さを欠いていれば、役員の責任が追及されてしまうことになります。

4 具体例

抽象的な話が続きましたので、具体的な事案をご紹介しましょう。

A銀行のニューヨーク支店(NY支店)のトレーディング部門に在籍していた従業員Iは、トレーディングの失敗による損失を穴埋めするため、A銀行が顧客から預かっている証券(預かり証券)を無断で売却した。なお、A銀行NY支店では、顧客からの預かり証券を現地のB銀行に再保管を委託しており、Iは、B銀行に取引を指示することにより、預かり証券を無断で売却していた。B銀行は、定期的に、A銀行NY支店から再保管委託を受けた預かり証券の残高証明書をNY支店宛に送付していたが、Iは、この残高証明書を改ざんし、無断売却を隠蔽していた。当然、NY支店でも、定期的に、監査部門、監査役及び監査法人による監査が実施されていたが、それらの監査では、B銀行に対して直接保管残高を確認するのではなく、残高証明書(Iが改ざんしたもの)とNY支店備付の帳簿を照合するだけであったため、Iの無断売却を発見することができなかった。このようなIの無断売却により、A銀行には巨額の損失が生じた。

この事案では、A銀行に、従業員が顧客から預かっていた証券を勝手に売却してしまうというリスクが存在していたにもかかわらず、それを防止するための内部統制システムが構築・運用されていないとして、役員の責任が追及されています。

この件は、最高裁まで責任の有無が争われ、最終的に役員の責任は否定されています。

しかし、地裁と高裁では、内部統制システム構築義務違反を理由に役員の責任が認められており、裁判所としても、適切な内部統制システムの構築・運用が肝要であるという姿勢を示しています。

5 まとめ

会社の規模が拡大すると、目の届かない業務が増え、ますますリスクを管理することは難しくなります。

しかし、しっかりとした内部統制システムを構築した上、これを適切に運用すれば、十分にリスクの顕在化を防ぐことは可能です。

いま一度、自分の会社に存在するリスクを分析した上で、内部統制システムの構築・運用を考えてみてはいかがでしょうか。