少数株主への株式売渡請求
平成27年5月1日から施行されている改正会社法において、少数株主を排除し、会社の支配権を特定の株主に完全に集中させることを可能とする「特別支配株主の株式等売渡請求」という制度の運用が始まりました(会社法179条の3)。この制度は会社の規模に関係なく活用でき、支配権の集中に寄与することが期待されています。
「特定支配株主の株式等売渡請求」の概要
この制度は、「特別支配株主」(総株主の議決権の10分の9以上を有する株主)が、対象会社に対して一定の事項を記載した通知を行い、会社の承諾を得ることで少数株主の承諾なく、直接、金銭を対価として取得することができる制度です。
これまでも同様の効果をもたらす手段として株式併合や全部取得条項付株式の発行などがなされてきましたが、株主総会の特別決議が必要であったり、定款の変更が必要であったりと、手間と時間を要するものでした。そこで、この制度の運用によって、機動的なキャッシュアウトが可能となりました。
手続の概要
(1)特別支配株主が、取得日、買取代金の額などを決めて、会社に対して売渡請求をすることを通知する。
(2)通知を受けた会社は、この売渡請求を承認するかどうかを判断する。承認するかどうかは、株主総会で決議する必要はなく、通常は取締役会で決議されます。
(3)承認されたときは、会社は特別支配株主にその旨を通知する。
(4)会社は、売渡株主(少数株主)に対して、取得日の20日前までに、会社が承認した旨を通知する。
(5)通知した取得日に売渡株主から特別支配株主に株式が移転する。対価の支払いの有無にかかわらず移転します。
要件
(1)特定支配株主
特定支配株主とは、総株主の議決権の10分の9以上を有する株主をいいます(会社法179条1項)。この議決権保有割合は、株式等売渡請求をする旨を通知するとき、その承認をうけるとき、株式の全部を取得するときにおいて、満たしている必要があります。
(2)対象会社
対象会社は会社の規模にかかわらず、また公開会社に限られません。
(3)売渡請求の相手方と株式
株式売渡請求は、特別支配株主以外の株主全員に対して行います。また、売渡請求の対象となる株式は、売渡株主の有する株式の全部であって、一部を対象とすることはできません。
売渡株主の対抗策
(1)売渡請求をやめることの請求(法179条の7)
売渡株主は、次の場合に売渡請求をやめることの請求をすることができます。
① 法令に違反する場合
② 対象会社が売渡株主に対する通知もしくは事前開示手続を行う義務に違反した場合
③ 売渡株式の売買価格が著しく不当である場合
(2)売買価格の決定の申立(179条の8)
売渡株主は、売渡価格に不服がある場合、取得日の20日前から取得の前日までの間に、裁判所に対し、その有する売渡株式の売買価格の決定の申立をすることができます。
(3)売渡株式の取得の無効の訴え(846条の2)
株式売渡請求に係る全部取得の無効は、訴えによってのみ主張できます。提訴期間は、取得日から6か月間です。無効事由は明示されておらず、解釈に委ねられており、重大な瑕疵がある場合に無効事由となると考えられています。