従業員に対する所持品検査
会社外への情報漏えいの防止や、備品窃盗の防止等、理由は様々考えられますが、会社による労働者への所持品検査が 行われることがあります。このような場合、労働者はこれに従う義務はあるのでしょうか。また、従わなかったときに解雇等の懲戒処分をすることが許されるのでしょうか。
これについて最高裁が判断したのが西日本鉄道事件(最判昭和43年8月2日)です。 簡潔に事案を説明しますと、鉄道会社であるY会社が、乗務員による乗車賃の不正隠匿を摘発、防止する目的で、従業員に対し所持品検査に従うことを義務付ける就業規則を定めていたところ、Y会社の運転士であるXがこれを拒否し、それを理由に懲戒解雇処分を受けたというものです。 3 このようなケースでは、
(1)そもそもプライバシーの侵害となりうるような、所持品検査を義務付けるようなことが許されるのか、
(2)許されるとしても、これに反したことを理由に懲戒解雇にまですることが許されるのか、という点が法的な論点となります。
これに関し上記判例は、(1)に対しては、①検査を必要とする合理的理由の存在、②妥当な方法と程度、③制度としての画一的実施、④就業規則などの明示の根拠、を満たす場合には、このような制度も有効であると基準を立て、上記事案ではこれを満たすと判断しました。そのうえで、(2)については、本件の懲戒解雇に至るまでの経緯、情状等に照らし、懲戒解雇も有効であるとしました。
すなわち、一定の場合には、会社は従業員に対し所持品検査を行えますし、従業員がこれに従わなければ、懲戒解雇することも許される可能性もある、ということになります。もっとも、上記判例からわかるように、所持品検査はいかなる場合でも有効、というわけではありません。
すなわち、就業規則等に明示の根拠がない場合には、それだけで従業員に所持品検査に従う義務を負わせることはできないことになりますし、仮に定められていたとしても、明らかに不必要な検査であったり、肉体に直接触れる、下着姿にさせる等の不当な方法での検査であった場合は、そのような条項は無効となり、従う義務はないと考えられます。そうであれば、従業員がこれを拒否したとしても懲戒処分の理由となるはずがなく、仮に懲戒処分がなされても当然に無効となると考えられます。
また、仮に所持品検査が上記基準を満たすようなものとして有効であり、従業員がこれを拒否したとしても、それによって行われた処分の有効性とは別問題です。
すなわち、労働契約法15条は、懲戒処分について、「当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には」その懲戒処分は無効となると規定しています。
つまり、仮に理由のある処分だったとしても、その処分の程度が行為に照らして不相当な処分である場合には無効とされることになります。 特に、解雇処分については、労働者としての地位の全てを奪う処分であるので、より厳しく判断されます(労働契約法16条)。上記判例では、解雇処分まで有効とはされていますが、これは処分に至るまでの様々な事情を考慮しての結果に過ぎません。
このように、従業員に対する所持品検査については微妙な法的判断を迫られます。実際にこれを行おうとされる場合には、事前に専門家に相談されることをお勧めします。