時効の放棄
時効利益の放棄について
以前、さまざまな債権の消滅時効の期間や時効の援用、時効の中断について説明してきましたが、今回は時効利益の放棄について説明します。
時効利益の放棄とは、時効の完成によって利益を受ける人が、時効の完成による利益を放棄することを言います。
例えば、個人間のお金の貸し借りで、貸主が返済を求めることなどを一切せず、10年以上が経過したという場合、借主が時効の援用をすることにより、その貸金返還請求権は消滅することになるのですが、このような場合において、借主にとって貸主がとてもお世話になった人で、借主がしっかりと返したいなどと考えて、貸主に対し 「消滅時効の期間は経過していますが、時効を援用することなくしっかりと返します」などと申し述べるようなケース(債務支払の約束)が考えられます。
この時効利益の放棄は、時効が完成したときに、それによる利益を受けるかどうかについて、個人の自由な判断に任せようとしたものです。また、時効利益の放棄の方法は、相手方に対して、一方的に意思表示をすることで足りるとされています。相手方の同意もいりませんし、裁判外ですることもできます。
しかし、時効利益の放棄は、時効期間が経過する前には行うことはできず、時効期間経過後にしかできません。例えば、貸金の契約を締結する際に、その契約書の中に特約として時効の利益を放棄する旨が記載されていたとしても、そのような特約は許されません。これは、債権者(例えば、お金の貸主など)が、お金に困っている債務者(例えば、お金の借主など)に対して、優位な立場を利用してあらかじめ時効の利益を放棄するように強いるおそれがあるからなどと考えられているためです。
また、上記の債務支払の約束のほかにも、時効利益の「放棄」と評価される行為としては、債務の承認があげられます。債務の承認とは、債務者において、権利が存在していることを認識しているなどと表明することです。
その他、債務の弁済や弁済の申入についても「放棄」とされ、一部を弁済しただけでも「放棄」とされます。さらに、時効期間が経過した後に、新たに弁済期限を定めることも「放棄」とされます。 そして、時効の利益の放棄が認められた場合には、従前の債権債務関係に変更がないことになります。
ここまで時効利益の放棄について説明してきましたが、「放棄」と評価される行為については、今回説明したもの以外にもさまざまなものがあります。また、具体的な事案に応じて、「放棄」と評価すべきかどうか難しい判断となることもあります。