権利能力なき社団
権利能力のない社団という言葉をご存じでしょうか。権利能力なき社団とは、社団としての実質を備えていながら法令上の要件を満たさないために法人として登記できない、またはこれを行っていないために法人格を有しない社団を指します。権利能力なき社団に該当するためには、判例によれば、①団体としての組織性を有しているか②多数決の原則により運営がなされているか③構成員の変更にもかかわらず団体そのものが存続するか④その組織についての代表の方法総会の運営、財産管理その団体としての主要な点が確定しているかによって判断されます。組合という名称が付いていても、これら要件を満たせば権利能力なき社団として認められます。
具体的に問題となるのは、法人格を取得していないマンションの管理組合やPTAが典型的な例です。
権利能力なき社団における共同所有
「権利能力なき社団の資産は構成員に総有的に帰属する」(最判昭和39年10月15日)とされています。総有とは、構成員は使用収益権を有しているものの、持分権は有しない共同所有の一形態をいいます。他方、組合団体の財産は構成員全体に合有的に帰属するとされていて、構成員は潜在的な持分権を有することに権利能力なき社団とそれに該当しない組合との間に違いがあります。この差異は、社団から脱退するときに持分の払い戻しがあるのかという点に帰着します。
権利能力なき社団の資産である不動産と登記
権利能力なき社団はその名のとおり権利主体とはなり得ません。したがって、その資産である不動産は社団構成員全員の名義により登記するか、他の構成員から信託的に社団代表者個人の所有として代表者個人の名義で登記することになります。ここで、「A管理組合 代表者X」という名義での登記が許されるかについて、登記実務は否定しています。これは、登記簿甲区所有者欄には所有権者を記載するものとされている以上、権利能力なき社団に権利能力がないにも関わらず所有者であるような外観を作出することは真実に反すると考えられたという背景があります。したがって、代表者個人で社団財産を登記する場合、登記簿上は社団の財産なのか代表者個人の財産なのかの区別はできなくなっています。
権利能力なき社団の登記請求権
以上のことから、仮に権利能力なき社団がある不動産を購入し登記を備えようとする場合、権利能力なき社団の代表者が 売主に対して登記を移転せよ、と請求することになります。
では、権利能力なき社団が登記移転請求権を行使できるでしょうか。
先ほど述べたように権利能力なき社団には権利能力がありませんから、権利能力なき社団名義への登記移転請求はできません。そのことから、原告適格(当事者適格とは、個々の訴訟において原告として訴訟追行することによって紛争を終局的に解決できる能力をいいます)を欠くものとも思われます。
しかし、最新の判例(最判平成26年2月27日)はこの点について「権利能力なき社団自身が原告となって訴訟追行することを認める実益がないとはいえない」として、当該社団が原告となってその登記名義人に対して、当該社団の代表者個人名義に所有権移転登記手続をすることを求める訴訟の原告適格を有すると結論付けました。したがって、訴訟上は権利能力なき社団であっても登記移転請求の原告になることができるものとなりました。
権利能力なき社団に対する登記請求権
では、仮にあなたが権利能力なき社団の代表者から社団の財産である不動産を購入したにもかかわらず登記移転に協力してくれないという場合、あなたはどのように登記移転請求をすることができるでしょうか。これまでの理解からすれば、構成員全員を被告とするか、または代表者を被告とするかの方法が考えられます。しかし、権利能力なき社団の構成員全員を原告が調査することは非常に煩雑で、負担の大きいものです。また、代表者に対して登記移転請求をする場合であっても、当該不動産について代表者名義の登記がすでに存在している場合はともかく、登記が存在していない場合には社団代表者を調べなければならないという負担があります。
そして、本判決が権利能力なき社団に対して原告適格を認めたことで、今後権利能力なき社団を被告として登記移転請求をすることも可能となるかもしれません。今後の判例の動向に注目が集まるところです。
権利能力なき社団と法人の違い
もし、権利能力なき社団で、法令上法人化が認められている場合に、法人化をするとなると、以下のメリットがあります。
① 代表者個人の財産と法人財産の峻別ができるようになり、契約も法人名で可能となります。
② 登記によって団体の存在と代表者の資格が公示されることになり、相手方も安心して取引が可能となり、取引の円滑化に資します。
以上のメリットが考えられますので、権利能力なき社団の運営にお困りの方は、法人化も考慮してみてもいいかもしれません。