抵当不動産が占有された時の対応
抵当不動産の不法占有者に対する抵当権者による対抗措置
抵当不動産について、第三者が執行妨害目的等で不法に占有している場合、抵当権者として取り得る手段は以下のようになります。
たとえば、抵当権者Xが甲の所有する不動産に抵当権を設定しており、その不動産を第三者であるYが不法に占有している場合について考えてみます。
このように第三者が抵当権の目的不動産を不法に占有している場合には、抵当権を実行して競売となった場合、競落価額が下がってしまい、抵当権者においては満足な配当を受けられなくなってしまう事態が生じます。
このような場合、不動産の所有者である甲が、Yに対して所有権に基づく妨害排除請求権を行使して、Yを排除してくれればよいのですが、甲としては、抵当権の実行による競売によりどうせ不動産を失ってしまうことから、現実には積極的に動いてくれることは期待できません。そこで、このような場合、Xとしては、どのような手段によってYに対抗することができるのかを考えてみましょう。
抵当権者による所有者の妨害排除請求権の代位行使
まず、抵当権という担保権は、競売による抵当不動産の交換価値から優先的に弁済を受けることを内容とするものですので、抵当不動産の使用・収益はその所有者が自由に行うことができます。したがって、抵当権者は、原則として、抵当不動産の所有者が行う使用収益に口を出すことができないことになります。
しかし、設問のように第三者が不法に抵当不動産を占有していることによって競売手続の進行が害され売却価額が下落するおそれがあるような場合で、それにより抵当権者が本来の配当を受けられないよう場合には、そのような占有は抵当権に対する侵害と評価することができ、抵当権者がこれに対して何も対抗手段がないというのは余りにも不合理です。
そこで、最高裁は、このような場合には、抵当権者は、抵当不動産の所有者に対して、そのような状態を是正し抵当不動産を適切に維持することを求める請求権を有するとし、この請求権を保全するため、所有者甲が不法占有者Yに対して有する妨害排除請求権を代位行使することができるとしています(最高裁平成11年11月24日判決)。
したがいまして、所有者甲がYに対して妨害排除請求をしてくれず、そのため競売手続において抵当不動産の売却価額が下落し適正な配当を受けることができないよう事態が生じるおそれがあるような場合には、抵当権者Xは、甲がYに対して有している妨害排除請求権を甲に代わって行使することができるということになります。
ただ、Xは、甲がYに対して有する権利を甲に代わって行使するわけですから、原則として、その不動産の占有を甲に戻す(甲に対して明け渡す)ことを請求することができるにとどまるのですが、上記最高裁判例は、甲ではなく抵当権者であるXに直接占有を移転することを求めることができるとしています。
ただ、どのようなケースでも直接抵当権者に明け渡すことを求めることができるかどうかについては、この判例では明らかではありませんでしたが、平成17年3月10日の最高裁判決では、「抵当不動産の所有者において抵当権に対する侵害が生じないよう抵当不動産を適切に維持管理することが期待できない場合」に、直接抵当権者に占有を移転するよう求めることができるとしました。つまり、抵当不動産の管理を所有者甲に任せておくと、再びその不動産を不法占拠されたりしてしまうような恐れがあるような場合には、Xは自己に対して抵当不動産を明け渡すよう求めることができることになります。
抵当権者による抵当権に基づく妨害排除請求
次に、抵当権者Xが、甲の権利を代位行使するのではなく、自らが有する抵当権に基づいて、Yに対して妨害排除請求を行うことが考えられます。この点、上記平成11年11月24日の最高裁判決は、結論としてこれを肯定していましたが、平成17年3月10日の最高裁判決は、これを正面から取り上げた上でこれを肯定しました。
この最高裁判例の事案は、占有者が「不法占有者」ではなく、抵当不動産の所有者甲から賃借権の設定を受けた占有権原を有する者であったケースですが、
ア その権原の設定が競売手続を妨害する目的で設定され
イ その占有により抵当不動産の交換価値の実現が妨げられて、抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態がある
ときは、抵当権者は、当該占有者に対して、抵当権に基づく妨害排除請求ができると判示しました。
4 このように、現在では、上記2つ判例により、抵当不動産につき抵当権者の優先弁済を受ける権利を侵害するような占有がなされた場合には、
①所有者が有する妨害排除請求権の代位行使
②抵当権に基づく妨害排除請求
という2つの方法により、その占有の排除を求めることができ、しかも抵当不動産を抵当権者の占有下に置くことができる道が開かれていることになります。ただ、どのような場合にでもこの方法がとれる訳ではありませんので、具体的なケースにつきましては当弁護士事務所にご相談くだい。