内定の取り消しについて
最近、日本の某テレビ局から内定をもらっていた女子大生が、ホステス経験を理由に内定が取り消されたため、その違法性を主張して、テレビ局に入社する権利があることを確認する裁判を起こしたというニュースが世間の耳目を集めています。
そこで今回は、内定や内定取消について説明したいと思います。
まず、採用内定をもらった状態が、法的にどのような状態にあるのかを説明します。
一般的に、採用内定通知が出されたところで、その企業との間で労働契約が成立したと考えられています。ただし、この労働契約は、入社日を始期とするものであり、また、解約権が留保されたものと考えられています。つまり、採用内定通知書または誓約書に記載されている採用内定取消事由が生じた場合は解約できる旨の合意が含まれており、また、卒業できなかった場合も当然に解約できるものと考えられているのです。なお、後記のとおり、記載されている採用内定取消事由が生じた場合であっても、内定取消が当然に適法となるものではありません。
ちなみに、採用内々定(経団連の「倫理憲章」で定められた採用内定開始日(10月1日)よりも前に、内定を約束するものです)については、一般的には、企業と就職希望者の双方とも内々定の時点において労働契約関係に入ったと意識することはないと考えられており、労働契約が成立したとは考えられておりませんが、個々のケースによっては労働契約成立が認められる場合もあります。
以上のとおり、採用内定は企業との間で労働契約が成立すると考えられているため、内定取消は、すでに成立した労働契約の解約ということになり、内定の際に留保された解約権の行使に基づくものであると考えられています。
そして、内定取消(解約権の行使)の適法性は、内定を取り消すことになった理由・原因(取消事由)に着目して判断がなされます。その取消事由については、誓約書などに記載がある場合にはそれを参考にしますが、裁判例において、「採用内定の取消事由は、採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であって、これを理由として採用内定を取消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるものに限られる」(最判昭和54年7月20日参照)とされています。つまり、内定取消は、客観的に合理的で社会通念上相当として認めることのできる事由が存在する場合に適法となります。
平たく言うと、内定取消は、社会一般的にみて、理にかなっていて内定を取り消されても仕方がないといえるような原因や理由があるときに適法とされるのです。そのため、採用内定通知書などに記載されている採用内定取消事由が生じた場合でも、その原因・理由によって内定が取り消されることが、社会一般的に仕方がないといえるような場合でなければ、内定取消が不適法となる場合もあります。
例えば、「提出書類への虚偽記入」という取消事由も、虚偽記入の内容や程度が重大なもので、それによって従業員としての不適格性が判明したことが必要であり、そこまで至らない場合には、採用取消が不適法になることも考えられます。
採用取消が適法になる例としては、内定者が学校を卒業できない場合や、健康を著しく害した場合、また、内定者が逮捕され起訴猶予処分を受けた場合などが考えられます。
以上のとおり、今回は内定や内定取消について説明してきました。このような問題でお困りの方は、一度当弁護士事務所にご相談ください。