債権譲渡について2
今回も、前回に続いて債権譲渡に関する説明をしたいと思います。
前回、債権は原則として自由に譲渡することができるため、ある特定の債権が二重に譲渡される事態が生じると説明しました。そこで、今回は、債権が二重に譲渡された場合の法律関係について説明します。
まず、債権の二重譲渡の例を挙げますと、AさんがXさんから金100万円を借りており、その貸金の返済の代わりとして、Bさんに対する債権(代金100万円を求める権利)をXさんに譲渡する一方で、後日、同じ債権を別でお金(100万円)を借りていたYさんに譲渡したような場合です。
このようなケースで問題となるのは、Aさんから、同じ債権を譲り受けたXさんとYさんのどちらがBさんに対して100万円を請求できるのかという点です。
この点について、民法では、債権の譲受人が、債務者以外の第三者に債権を譲り受けたことを主張するためには、前回説明した譲渡人(旧債権者)から債務者に対する「通知」や、債務者の「承諾」を「確定日付ある証書」によってしなければならないとされております。
つまり、上記の例でいうと、XさんがYさんに対して、Bさんに対する債権を取得したことを主張するためには、AさんからBさんに対して確定日付ある証書による通知をしてもらうか、BさんからAさん又はXさんに対して確定日付ある証書による承諾をしてもらう必要があります。
Xさんは、このような通知又は承諾を具備することにより、Yさんに対して債権を取得したことを主張でき、Bさんに対して100万円の請求が出来るのです(なお、このケースでは、Yさんには確定日付ある証書による通知又は承諾がないことを前提にしています。)。
この確定日付ある証書というものは、具体的には、債権譲渡通知書や債権譲渡承諾書等を内容証明郵便にして郵送したものや、それらの書面に公証人役場で確定日付印を押印してもらったものを指します。
なお、上記通知又は承諾は、前回Bさんとの関係で必要になると説明した「通知」または「承諾」を兼ねることになります。
次に、先の例で、XさんとYさんの両者とも確定日付ある証書による通知又は承諾がある場合に、どちらがBさんに対して100万円の請求をできるのかという問題が生じることがあります。
この優劣については、通知又は承諾に付された確定日付の先後によって決まるものではなく、確定日付ある通知が到達した日時又は確定日付ある承諾の日時の先後によって決せられるとされております(最判昭和49年3月7日)。
したがって、上記の例では、確定日付ある通知が到達した日時又は確定日付ある承諾の日時が先の者が、Bさんに対して請求できることになります。
このように、債権が二重譲渡され、譲受人がともに確定日付ある通知又は承諾を具備した場合には、その到達日時等の先後で劣後が決せられることになりますが、内容証明郵便では到達日時まで証明することはできませんので、債権譲渡通知書等を内容証明郵便にして郵送する際には、郵便物の到達日時まで証明してくれる配達証明をつけることをお勧めします。
なお、各譲受人の確定日付ある証書による通知の到達時又は承諾の日時が同時の場合は、各譲受人は、それぞれ債務者に対して債権の全額の弁済を求めることができます。
他方で、債務者は、他に譲受人がいることを理由に弁済を拒否することはできませんが、各譲受人に対して弁済しなければならないわけではなく、どちらか一方に弁済をすればその債権は消滅し、他の譲受人に対しては弁済をしなくてよいことになります。
また、このような場合、債務者は、債権者が確定できずどちらに支払っていいのか分からないということを理由として、弁済金を供託することによって債務を免れることができます。そして、債務者が供託をした場合、各譲受人は、譲受債権額に応じて供託金額を按分した額の供託金返還を請求することができます(最判平成5年3月30日)。また、各譲受人とも、通知又は承諾が確定日付のある証書によらない場合には、第1の譲受人が優先すると考えられています(大審院判決大正8年8月25日)。
次に、債権譲渡と差押の関係について説明します。
上記の例で、Aさんが、Bさんに対する債権をXさんに譲渡したところ、Aさんの債権者であるYさんが同債権を民事執行手続により差し押さえたような場合、その差押と債権譲渡との優劣が問題になることがあります。
このような場合は、債権差押えの通知が第三債務者に送達された日時と、確定日付のある債権譲渡の通知が第三債務者に到達した日時又は確定日付のある第三債務者の承諾の日時との先後によって決することとされております(最判昭和58年10月4日)。そこで、Xさんの確定日付ある証書による通知の到達時又は承諾時と、Yさんの差し押さえの通知の到達時とを比較して、先の者が、Bさんに対して債権の弁済を請求できます。
なお、確定日付のある通知の到達時と、債権差押の通知の到達時の先後が不明の場合には、同時に到達したものとして扱われ(最判平成5年3月30日)、上記4と同様に処理されます。