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事業承継

事業承継

現在、中小企業経営者の方々にも高齢化の波が押し寄せてきています。中小企業庁によれば、中小企業経営者の年齢のピークは年々高くなっており、2015年のデータでは、20年前の47歳から66歳まで上がっています。また、経営者の引退年齢は平均70歳と言われており、今まさに引退する人、引退を考えている人が大勢います。
しかし、仮に引退するとしても、会社をどうするのかは大きな悩みです。業績が思わしくないとか、事業の将来性が見込めない場合であれば、廃業は合理的な選択でしょう。他方で、業績が好調で、将来10年は見通しが明るいと思われる事業を、引退と一緒に廃業してしまうのは大変勿体ないことです。
そこで、ここでは、地域に貢献してきた価値ある事業を将来に繋げるための事業承継について、説明します。

事業承継の方法

事業承継には、大きく分けて、親族内承継、企業内承継、M&Aの3種類の方法があるといわれています。事業承継を行う場合には、基本的にはこの3つの方法から、状況に応じて最も適切な方法を選択することになります。

親族内承継

親族内承継とは、オーナー一族の中で事業承継を行うことをいいます。親から子に事業を継がせるのはその典型で、親から子に株式を贈与する等して事業用の資産を移転することが、一般的に行われています。オーナー一族は潤沢な資産を保有していることが多く、後継者が株式を買い取る場合でも資金に困ることなく、他の方法と比べてスムーズに承継できる点が特徴です。

企業内承継

企業内承継には、従業員への承継と外部からの人材の招へいとの二つの方法があります。この企業内承継は、オーナー一族内で適切な後継者が見つからない場合に、会社をよく知った人や外部の信頼できる人を招き入れて承継させる方法です。
この方法では、後継者に会社の株式を買い取る資金がない場合も多く、経営承継円滑化法(「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」)の金融支援を受けるなどの工夫が必要です。

M&A(Merger&Acquisition)

M&A(Merger&Acquisition)とは、企業の売買のことをいい、オーナー一家から見れば企業の売却、譲り受ける側から見れば企業の買収です。親族内や社内で適切な後継者が見つからない場合には、このM&Aが重要な選択肢となります。

事業承継における課題

もっとも、いざ事業承継を行おうとすると、その障害となる様々な問題が発生します。その代表的なものとしては、次のような課題があげられます。

後継者問題

前述の通り、後継者を親族内や社内で見つけることができない場合、M&Aを検討することになります。
その時、売却先を探す方法として考えられるのは、M&A仲介業者を利用する方法です。しかし、企業の規模や財務状況によっては、仲介手数料をねん出できない等の理由で、このような民間事業者のサービスの利用が困難な場合もあります。
そのような場合には、国が各都道府県に設置している「事業引継ぎ支援センター」を利用する方法も考えられます(相談は基本的に無料で、条件を満たせば無料でマッチングまで行ってくれます)。

資金調達の問題

事業譲渡においては、株式や事業用資産の権利移転が必要ですが、これを有償で行おうとすると、後継者の側でいかに資金を調達するかが問題となります。
このような必要資金を調達するためには、日本政策金融公庫が行っている「事業承継・集約・活性化支援資金(企業活力強化貸付)」や、前述の経営承継円滑化法上の特例を利用する方法が考えられます。
また、後継者による積極的な事業展開を資金面で支援するものとして、中小企業庁が実施している「事業承継補助金」があります。

経営者保証の問題

かねてより、法人である中小企業が金融機関から融資を受ける際には、信用を補完するため経営者個人に保証させる方法が広くとられてきました。そのため、経営者としては、事業を承継させて自分は引退しようとしても、経営者の個人保証が抜けずに引退を躊躇したり、金融機関が先代のみならず後継者にまで重複して保証を求めるといったこともあります。
そこで、この経営者保証の慣行が事業承継を阻害している現状を改善するため、中小企業庁が関与して「経営者保証に関するガイドライン」が作成されました。このガイドラインにより、収益性や財務情報の透明性などの要件を満たす場合に、金融機関の側から経営者保証を求めないようにする運用が採られるようになってきています(もっとも、あくまでガイドラインであるため、金融機関に対する強制力はありません)。

税金の負担の問題

親族内や社内で事業承継を行う場合には、株式や事業用資産を無償で後継者に承継させると、多額の贈与税や相続税の負担が生じ、後継者が承継を躊躇する原因となります。
この負担を緩和する方法として、「事業承継税制」があります。これは、事業の継続などの一定の要件を満たす場合に税負担を猶予するもので、平成21年の制度創設当時は要件が厳しく、あまり利用されていませんでしたが、平成30年度税制改正で格段に利用しやすくなりました。

M&Aにおいてもかなりの重荷に

また、M&Aの場合も、税金の負担は事業承継の大きな障害となります。M&Aでの会社分割や事業譲渡において、大量・高額な不動産を有する事業を承継すると、登録免許税や不動産取得税の負担が大きくなります。
そこで、この問題に対応するため、このような場合に利用可能となる税の特例が、平成30年度税制改正で導入されました。この税制改正によれば、一定の条件を満たして事前の認定を受けることができれば、登録免許税と不動産取得税が軽減されます。

遺留分の問題

先代の経営者が後継者に集中的に生前贈与をして株式や事業用資産を承継すると、先代経営者が亡くなった時にそのすべてが遺留分を計算する際の基礎財産に算入されることになるため、他の相続人の遺留分を侵害する場合には、相続人間で紛争が生じてしまいます。
また、後継者に生前贈与した株式は、先代の経営者が亡くなった時点を基準としてその価格が評価され、そしてその価格をもって遺留分の算定基礎財産に算入されます。そのため、後継者が株式の贈与を受けてから先代が亡くなるまでに株式の価格が上昇した場合、その上昇が後継者の努力によるものだとしても、その努力が考慮されることなく先代が亡くなった時点での価格で遺留分が算定されてしまい、後継者は頑張り損となってしまいます。

経営承継円滑化法を活用しよう

このような問題を回避する方法として、経営承継円滑化法における民法の特例を利用する方法があります。
具体的には、後継者が先代からの贈与等により取得した株式等について、先代が亡くなった時に相続人となる予定の人が全員で、次のような合意を行います。

①除外合意

後継者が先代からの贈与等により取得した株式等について、先代の相続において、これを遺留分算定の基礎財産に算入しないこととする合意。

②固定合意

後継者が先代からの贈与等により取得した株式等について、先代の相続において、これを遺留分算定基礎財産に算入すべき価格を合意の時における価格とする合意。

経営承継円滑化法における民法の特例に基づいて、このような合意を行うことができれば、前述の遺留分の問題を一発で回避できることになります。