養育費・婚姻費用の増額減額について
標準的な養育費及び婚姻費用の算定は、別居後の経済力がない世帯にとって早急に決める必要がある事柄です。
従来、養育費及び婚姻費用の算定については、権利者及び義務者の収入から公租公課、職業費、特別経費を差し引き、生活費に充てられる基礎収入を算出し、さらに権利者、義務者、子の最低生活費指数を算出する等して計算していましたが、当事者間同士で、差し引きされる費目等に争いがある場合は、算定が長引き、緊急性が要求される養育費及び婚姻費用の算定にとって好ましくないことから、簡易迅速に算定するために算定表が作成されました。
しかし、算定表においては、標準的な別居・離婚家庭を想定されたものであることから、個々の家庭の事情により養育費等の額を修正する必要性があります。
増額について
例えば、算定表では、標準的な額の医療費は考慮されていますが、高額な医療費の考慮されていないため、養育費及び婚姻費用の加算を主張することがきます。
しかし、高額な医療費の加算が全て認められるのではなく、医療費として必要性があること等の主張が必要となり、疾病の種類、程度、専門家の意見、薬剤の種類等を踏まえて必要性が検討されることになります。
また、教育費についても算定表では、公立学校の教育費のみを考慮していることから、私立学校の費用が、算定表において教育費として考慮されている金額を超えて、権利者及び義務者の収入に照らして相当と言えるものについては、双方の収入に応じて負担が検討されることになります。
このような詳細な検討が必要とされるのは、養育費及び婚姻費用の負担は、生活保持義務を根拠とすることから、義務者は、扶養義務者に対して同程度のレベルの生活を保持する義務がある一方、義務者の生活が成り立たないような負担は許されないためであると考えることが出来ます。
減額について
他方、義務者に債務がある場合でも、生活保持義務は依然あるわけですから、養育費及び婚姻費用が直ちに減額されることはありません。しかし、債務の種類が生活保持義務に優先しない一般的な債務か、それとも共同生活に関して発生した債務であるかで養育費及び婚姻費用の算定に当たり考慮されることがあります。
すなわち、義務者の借り入れにより権利者も恩恵を受けたといえるかが考慮されることになります。
では、住宅ローンの場合、婚姻費用等において考慮されるでしょうか。住宅ローンについては、資産形成の性質があることから財産分与で考慮されるとの考えがある一方、住居費用の性質もあることから婚姻費用等には住居費が当然織り込まれているため、住宅ローンの支払を婚姻費用等において全く考慮しないことも妥当ではありません。
そこで、誰が住宅ローンを負担し、居宅に居住しているかで婚姻費用の算定に考慮されることになります。例えば、義務者居宅のローンを義務者が支払っている場合は、自らの資産形成と住居費用を支払っているため、婚姻費用で特別の考慮をする必要はありません。
では、義務者が、婚姻生活中に住宅を購入し、別居後に住宅を売却し、オーバーローンのため債務が残った場合、義務者がその債務を負担している場合、婚姻費用等の減額に考慮されるでしょうか。
この場合、先ほどお話しした債務の種類によって、権利者が利益を得ているかで判断される場合と同じように、債務の種類及び権利者が利益を得ているかによって判断されます。
当該債務は住宅ローンそのものではありませんが、ローンの返済に関して借り入れた債務のため共同生活に関して発生したものであるといえます。
そのため婚姻費用の算定にあたり全く考慮しないことは相当ではありませんが、義務者が負担する婚姻費用等月額と債務返済月額の両方を考慮しても義務者の生活が破綻するおそれまではないことや、義務者が債務を負担することで権利者が利益を得ているとは言えない場合は、婚姻費用等の算定において考慮されることはないといえるでしょう。