遺留分減殺請求と時効取得
遺留分減殺請求と取得時効との関係
被相続人が唯一の遺産である土地を、相続人Aに対して生前贈与していた場合、他の相続人Bは、自分の遺留分が侵害されたことを理由に、Aに対して遺留分減殺請求をすることができます。
では、Aが生前贈与を受けた土地を、長期間の占有により時効取得していた場合、Aはこれを理由にBの遺留分減殺請求を拒むことはできるのでしょうか。
今回は、遺留分減殺請求と取得時効との関係についてご説明します。
まず、自己の物であっても時効取得できるとするのが判例ですから、Aは生前贈与された土地を時効取得することができます。
しかし、Aが土地を時効取得したからといって、これによって、Aが生前贈与を受けた事実がなくなるわけではありませんし、また、Bの遺留分が侵害された事実が覆るわけでもありませんので、Aが土地を時効取得したことの反射的効果として遺留分減殺請求権が当然に消滅すると考えることは出来ません。
そこで、Aが贈与された土地を時効取得したことによって、遺留分減殺請求による物権変動の効果(遺留分減殺請求権は形成権ですので、その行使によって、Bの遺留分を侵害する限度で、Aに対する生前贈与は失効し、Bは土地について共有持分を取得することになります。)が妨げられるかどうかが問題になります。
この点について、最高裁平成11年6月24日判決は、「遺留分権利者の減殺請求により、贈与は遺留分を侵害する限度において失効し、受贈者が取得した権利は右の限度で当然に右遺留分権利者に帰属するに至るものであり・・・、受贈者が・・取得時効を援用したとしても、それによって、遺留分権利者への権利の帰属が妨げられるものではないと解するのが相当である。」として、相続人が生前贈与の目的物を時効取得したとしても、これによって遺留分減殺請求の権利は妨げられないと判断しました。
上記最高裁判決は、判断の理由として、①「民法は、・・・遺留分減殺の対象としての要件を満たす贈与については、それが遺留分減殺請求の何年前にされたものであるかを問わず、遺留分減殺の対象となるものとしていること」、②「(仮に時効取得によって遺留分減殺請求の権利が妨げられるとすると)、遺留分を侵害する生前贈与がされてから被相続人が死亡するまでに時効期間が経過した場合には、遺留分権利者は、取得時効を中断する法的手段のないまま、遺留分に相当する権利を取得できない結果となること」を挙げています。
このように、被相続人からかなり昔に生前贈与を受け、取得時効が成立する場合であっても、これによって遺留分減殺請求の権利が妨げられることはなく、相続時には遺留分減殺請求の対象となりますのでご注意ください。