遺留分減殺請求と価額弁償
遺留分減殺請求に対する価額弁償
今回は、遺留分を侵害された相続人が、遺留分を侵害した人に対して遺留分減殺請求した場合に、減殺請求を受けた人が、「価額弁償」を申し出た場合の法律関係について、事例に沿ってご説明します。
事例
- 被相続人Aが死亡し、その相続人としては子供Xの一人のみである。
- 被相続人が残した遺産は、1000万円の預金があるが、生前に知人のYに3000万円相当の甲土地を贈与していた。
この事例におきましては、Xの遺留分の割合は1/2で、その遺留分額は、(1000万円+3000万円)×1/2=2000万円 となります。
したがって、Xは、遺産の預金1000万円を相続によって取得したとしましても、Yに対する生前贈与によって1000万円遺留分を侵害されたことになります。
そこで、Xは、Yに対して遺留分減殺請求をして、この1000万円を取り戻すことになりますが、この場合、Xは、Yに対して「1000万円返せ。」という請求は原則としてできませんので注意を要するところです。
それでは、Xは、遺留分減殺請求をしたことによって何を得るかといいますと、Yが取得所有している3000万円相当の甲土地について、1000万円相当の権利すなわち1/3の持分権を取得することになり、Yに対して1/3の持分を移転するよう請求できることになります。
ただ、それでは、Xは単に甲土地に持分権を有しているだけですので、これをお金に換えようとすれば、Yに対して、別途、甲土地について共有物分割請求をして、甲土地の1/3を現物でもらうか、競売に付して、競落代金の1/3をもらうことになります。
これに対し、Yは、たとえば甲土地の上に自分が建物を建てている場合には、この土地の1/3をXに渡したり、競売にかけられたりすることは避けたいと考えるのが普通です。
そこで、そのような場合には、Yは、Xに対して、遺留分の代価である1000万円を支払えば(これを「価額弁償」といいます)、甲土地について1/3の持分の返還を免れることができ、Xが甲土地に持分を有してしまうことを避けることができます。
ただ、Yは、単に「価額弁償する」という意思をXに表示しただけでは足りず、現実に価額の弁償を現実に履行するか、またはその履行の提供をしなければならないとされていますので、ご注意ください(最高裁S54.7.10判決)。
他方、Xは、Yから価額弁償するという意思表示をされた場合でも、Yが現実の履行や履行の提供をしていない場合には、Yに対して、甲土地についての1/3の持分の移転登記を請求するか、あるいはそれに代わる価額弁償請求かのいずれをも行使することができます(最判S51.8.30、最判H9.2.25)。
そして、Xが価額弁償請求権を行使する旨意思表示したときは、Xは、甲土地についての持分の移転登記請求権をさかのぼって失い、これに代わる価額弁償請求権を確定的に取得することになります(最判H20.1.24)。
なお、Xが価額弁償を求めて訴訟を提起したとき、その「価額」は、訴訟の口頭弁論終結時を基準として評価されます。