取締役の会社に対する責任

取締役の会社に対する責任

会社に対する取締役の責任について

今回は、取締役の行為によって会社に損害が生じた場合に、取締役が会社に対してどのような責任を負うのかについてご説明します。

会社法は、いくつかの規定で、会社に損害が生じた場合や、会社から金銭が流出した場合に、取締役がその賠償等をする責任を定めています。その中でも、任務懈怠責任と呼ばれる会社法423条の責任が代表的です。 取締役と会社の間では委任契約が締結されていると解されますので、会社法423条の責任は、民事上の債務不履行の性質を有するものと解されています。

この会社法423条の責任が認められるためには、①任務懈怠、②会社の損害、③任務懈怠と会社の損害との因果関係、④帰責事由の存在という4つの要件が必要であると解されています。
  
そして、これらの要件で特に問題があるのが、①に挙げた 「任務懈怠」の存在です。結果的に会社に損害が発生したからと言って、取締役の経営上の判断を常に任務懈怠とすることは、本来リスクのあるビジネスの世界で、取締役の企業経営を委縮させてしまうおそれがあります。そこで、経営判断については取締役に裁量が認められ、判断の過程・内容に著しい不合理がない限り注意義務違反にならないという考え方(この取締役の経営判断に裁量を認める原則を、一般に経営判断原則と呼びます)がアメリカを中心として唱えられてきました。

そして日本においても、最高裁平成22年7月15日判決がこの経営判断原則を採用しました。事案はすこし複雑なので割愛しますが、事業再編計画の一環として子会社とする会社の株式の取得方法、その価格の決定について、「(取締役は)評価額の ほか、取得の必要性、会社の財務上の負担、株式の取得を円滑に進める必要性の程度等をも総合考慮して決定することができ、その決定の過程、内容に著しく不合理な点がない限り、取締役としての善管注意義務に違反するものではない」と判示し、評価額を弁護士等の意見を聴取していたこと・企業再編の効果による企業価値の上昇が見込まれることなどから結論として取締役の任務懈怠を否定しました。  

もっとも、具体的な事件においてどの程度の情報収集や意思決定の慎重さが求められるか、または取締役に認められる裁量 の幅は取締役が判断を求められる事柄の性質によって異なります。判例でも、破たんした銀行の取締役の善管注意義務について、銀行取締役の注意義務の程度は一般株式会社の取締役のそれに比して高く、経営判断原則の適用も限定される旨の一般論を述べています(最高裁平成20年1月28日、最高裁平成21年11月9日)。このように、その職務によっては取締役の裁量の範囲は異なることにご注意ください。