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債権回収

債権回収

事業を営んでいくにあたっては、貴社が有料で提供するものが物であれサービスであれ、お客には必ずその提供する業務に対する対価を支払ってもらわなくてはなりません。これは、業務として物やサービスを提供する以上、当然のことです。
しかし、ときには、様々な事情から、お客からお金を期限までに支払ってもらえないこともあります。このような場合には、自社のためにその代金をなんとか回収しなければなりません。
そこで、自社が他社や他の個人に対して、お金を払ってもらえる権利(これを債権といいます)を持っている場合には、その債権を回収する様々な方法が認められています。
ここでは、そんな債権の回収方法について、説明します。

内容証明郵便により請求する方法

債権を持っているにもかかわらず、相手が期限内にお金を払ってくれない場合、まずは、相手方に「お金を払って下さい」と請求をすることになります。
その際には、口頭で請求をしたり請求書を出したりして、請求することが考えられます。
しかし、この中でも最も効果的な請求方法は、支払いを求める旨を記載した書面を内容証明郵便で送ることです。
なぜなら、内容証明郵便はきちんとした固い形式の送付方法なので、これにより、相手が「何が何でもお金を回収するつもりだな」と身構えて、それまでの態度を変えて支払いをしてくることがあるからです。また、それだけはなく、内容証明郵便の最大のメリットは、「いつ、どこの誰に、どのような内容の文書を送ったのか」が全て記録されますので、後々相手ともっともめることになり裁判等になってしまった場合に、それを証拠として用いることができる点にあります。 

弁護士名で送る内容証明郵便はより効果的

その内容証明郵便での請求の効果をさらに高めるものとして、弁護士に依頼し、弁護士名で内容証明郵便での請求をする方法があります。
弁護士の名前による内容証明郵便での請求を受けた相手としては、ここで支払いをしないと裁判を起こされたり、財産が差し押さえられたりすることを恐れ、支払いをしてくれる場合が多々あるからです。

内容証明郵便の送付後の話し合いにおける注意点

内容証明郵便による請求をしたことによって、すぐに一括でお金の支払いを受けることができれば、もちろんそれがベストです。
しかし、相手の事情によっては、一括での支払いが厳しい場合も多々あります。そのような場合には、支払い方法や支払い条件について、相手と話し合うことになります。
そして、例えば、分割で支払ってもらうことやその支払日をいつにするか等の支払い条件・方法について、相手と話し合いがまとまった場合は、その合意した内容を記載した公正証書を作成しておくといいでしょう。公正証書が作成されている文書については、その後に決められた支払日に支払いがなかった等、相手がその内容に従わなかった場合には、強制執行により強制的に財産を差し押さえたりすることができます。

※強制執行については、下記「強制執行手続きにより回収する方法」を参照。

裁判所の手続きを利用して回収する方法

自社と相手との間だけの請求や当事者間での話し合いだけで解決するのではなく、裁判所が介入してくれる手続きを利用して、債権を回収する方法もあります。
この裁判所が介入してくれる手続きとしては、訴え提起前の和解(これを即決和解といいます)と調停の申し立て、さらに支払督促手続があります。

訴え提起前の和解(即決和解)

例えば、お金を支払ってくれない相手との話し合いにおいて、分割で支払ってもらうことやその支払日をいつにするか等の支払い条件・方法について話し合いがまとまった場合には、上記のような公正証書を作成して今後に備えるという方法だけでなく、裁判所における訴え提起前の和解という手続きを利用することも考えられます。
この訴え提起前の和解とは、裁判所における和解のひとつで、財産上の争いのある当事者が、訴訟等によるまでもなくお互いの合意による解決の見込みがある場合に、判決を求める訴訟を提起する前に、裁判所に和解の申立てをし、和解を成立させて紛争を解決する手続です。
この手続により、話し合った内容の和解を成立させておけば、上記の公正証書を作成した場合と同様に、支払日に支払いがなかった場合等に、強制的に財産を差し押さえたりすることができます。

調停の申し立て

また、相手方対してお金を支払うように請求をしても無視されてしまったり、話し合いがまとまらなかった場合には、裁判所の調停手続きを利用することも考えられます。
この手続きは、簡易裁判所に調停の申し立てをして、第三者である調停委員に間に入ってもらい、お互いの話し合いによって解決するという制度です。
手続きもそれほど難しくなく、費用もほとんどかからないので、弁護士に依頼することなく対応することができます。

支払督促手続

さらに、支払督促手続というものがあります。この手続は、法律の専門家ではない人でも、それほど費用をかけることなく、簡易迅速に紛争を解決することができるものです。
この支払督促手続とは、お金の支払いを求める請求等について、債権者の一方的な申し立てにより、その主張の真偽を審査することなく、裁判所書記官が支払督促(債務者に金銭の支払等をするよう督促する旨の処分のこと)を発する手続のことをいいます。
この支払督促手続きは、相手(債務者)の住所地を管轄する簡易裁判所の裁判所書記官に対して、申し立てをします。この申し立てに対して、相手(債務者)から異議の申し出がない場合には、仮執行宣言の申し立てという手続を経ることによって、強制執行の手続をとれるようになります。

訴訟手続によって回収する方法

訴訟手続によって債権を回収する方法もあります。この訴訟手続は、大きく2つの種類に分かれていて、それが少額訴訟手続と通常の民事訴訟手続になります。

少額訴訟手続

訴訟手続には、上記の支払督促手続と同様に、法律の専門家ではない人が、それほど費用をかけることなく、また、簡易迅速に紛争を解決することができる少額訴訟手続というものがあります。
これは、60万円以下の金銭の支払を求める場合に限って利用できるもので、この手続を利用するためには簡易裁判所に訴えを提起することになります。

少額訴訟手続における手続き・判決の特徴

この少額訴訟手続においては、裁判所は、当事者双方の言い分を聞いたり、証拠を調べたりして、原則として1回の期日で審理を完了しなければならないとされていて、また、審理完了直後に判決を出さなければならないとされています。
少額訴訟手続の判決については、裁判所は、審理の結果、原告の主張・請求を認める判決をする場合であっても、被告の経済状態やその他の事情を考えて必要があると判断したときは、判決言い渡しの日から3年以内の範囲で支払の猶予を認めたり、分割して支払うことを認めたりすることがあります。

通常の民事訴訟手続

訴訟手続には、少額訴訟手続の他に通常の民事訴訟手続もあります。この通常の民事訴訟手続においては、請求する金額が140万円以下の場合は原則として簡易裁判所へ訴訟申立を行うことになり、その金額を超える請求の場合には地方裁判所へ訴えを提起することになります。
通常の民事訴訟手続においては、お互いに主張と反論を繰り返し行い、その後に証拠調べ(尋問手続といって、裁判官が当事者等の話を直接聞くことになります)を行って、裁判所が判決を出すことになります。なお、その手続の途中で話し合いによる解決(これを和解といいます)を促されることもあります。

強制執行手続によって回収する方法

このような訴訟手続において、「お金を支払いなさい」という判決をせっかく裁判所からもらえても、それでも相手が自発的に支払いをしてこないことがあります。また、「お金を支払います」ということで相手と和解できても、相手がその内容に従わず、なお支払いがされない場合もあります。
このような場合には、裁判所が自ら積極的に動いて、その債権を回収してきてくれるということはなく、自ら強制執行手続をとることで、債権を回収しなければなりません。
そこで、以下では、強制執行手続について説明します。

強制執行では相手の財産の把握が必要

まず、強制執行手続を行うにあたっては、相手がどのような財産を持っているのかについて、把握する必要があります。
具体的には、不動産や動産または預金を持っているのか、持っているとしたらそれらがどこにあるのか、などについてきちんと把握していなければ、強制執行手続をとることはできません。なぜなら、強制執行手続においては、強制執行する財産をきちんと特定して、その申立をしなければならないとされているからです。

預貯金口座に関する情報の取得手続き

強制執行手続においては、相手の預貯金口座がわかれば、預貯金を差し押さえることも可能です。しかし、これまでは、相手の預金口座等がどこの銀行のどの支店にあるのかわからないために、預貯金の差し押さえができず、結局債権を回収できないことがよくありました。
このような事態を回避するため、相手の預貯金口座に関する情報を取得できる手続きとして、第三者からの情報取得手続きという制度が設けられました。この手続によれば、裁判所から銀行に対して、その相手が保有する口座の情報を照会してもらうことができるようになりました。
そこで、この手続を利用し、相手方の預貯金口座の情報(支店名など)が入手できれば、その口座にかかる預貯金債権を差し押さえることによって、債権の回収を行うことができることになります。

具体的な債権の回収方法

お金を回収するための強制執行手続においては、具体的にどのような方法により、債権を回収するのでしょうか。この点については、強制競売や債権執行などによることになります。
強制競売とは、相手が所有している不動産や価値のある動産(自動車や工場機械など)を差し押さえて、それを競売にかけて、その売却代金から支払いを受ける方法をいいます。
また、債権執行とは、相手が持っている預金口座の残高(預金債権)を差し押さえて、その預金の払い戻しを受けたり、相手が他の第三者(勤務先なども含む)に対して貸金債権や給料債権をもっていれば、その債権を差し押さえて、そこから回収する方法をいいます。

仮差押手続を有効に活用しよう

なお、直接的な債権回収方法ではありませんが、仮差押手続についても説明します。
例えば、訴訟手続等を行う前に、相手の財産を調査してみたところ、他者に対する貸金債権をもっていたり、不動産を所有していることが判明したとします。この場合、上記の通り、訴訟手続を経た上で、強制執行により債権を差し押さえたり不動産を差し押さえることができるのですが、訴訟手続をしている間にその貸金の返済を受けたり、不動産を売ってしまったりすることがあります。
このような場合、差し押さえの対象となる不動産や債権がなくなってしまっているので、せっかく「お金を支払え」という判決をとっても、強制執行をすることができなくなってしまいます。
そこで、このような事態を避けるために、訴訟を提起する前に、これらの債権や不動産を仮に差し押さえておくことができます。これを仮差押といいます。
この仮差押手続を行うと、相手は不動産を他者に売り渡したり、債権を回収したりすることができなくなるので、相手が事前に財産を処分してしまうおそれがある場合には、この手続きを行なっておくことをおすすめします。