ただし、労災保険で全額の補填はされない
もっとも、上記のような労災保険による給付がされた場合であっても、企業には未だ労働者に対して損害を賠償する義務が残ります。
なぜなら、労災保険の給付は、労働者の損害の全てを補填するわけではないからです。
具体的には...
治療費
治療費については、労災保険から支給されることになるため、企業としては負担せずに済みます。
休業損害
休業損害については、労働者が治療を受ける期間中に、仕事を休むことで給料を得られなくなった場合、この得られなくなった給料相当額が損害となります。
そして、先にご説明したとおり、労災保険では、その60%までしか支給されませんので、残りの40%については、企業が賠償すべきことになります。
慰謝料および後遺障害慰謝料
労働者の精神的な損害として、ケガ等についての慰謝料や、後遺障害が残ってしまった場合の後遺障害慰謝料があります。
これら慰謝料については、労災保険からの給付はありませんので、使用者が損害を賠償すべきことになります。
後遺障害による遺失利益
さらに、労働者に後遺障害が残ってしまった場合、後遺障害によって労働能力が失われることで、本来なら稼ぐことができたであろう給料を稼げなくなってしまうことに対する賠償が必要になります。これを逸失利益といいます。
この逸失利益については、後遺障害の等級に応じて定められている労働能力喪失率を基礎収入(事故前の年収あるいは平均賃金)に乗じ、就労可能年齢とされている67歳までの減収分の合計が損害となります。
これについては、上記のとおり労災保険から障害補償年金が支給されますが、あくまで損害全体のうちの支給された分のみが損害の補填として認められるに過ぎないため、企業は残りの全額という大きな金額を賠償することになります。