不動産・建築トラブル

不動産の任意売却

不動産の任意売却

最近、不動産の「任意売却」という言葉を耳にする機会が増えましたが、この「任意売却」とは、一般の人(法人や業者を含む)の間で行われる通常の売買をいいます。ですので、不動産の任意売却とは、「土地や建物を普通に売ること」という意味になります。

任意売却がなぜ問題となるの?

では、不動産をただ普通に売るだけというこの不動産の任意売却が、なぜ問題になることがあるのでしょうか。
この点について、まず、ある不動産を売ろうとする際に、競売手続によるべきかどうかが検討されているとしましょう。その場合、競売手続きについて検討する中で、競売ではなく不動産の任意売却をすることができないかについても、併せて検討されることになります。
これはなぜかというと、裁判所による競売手続(簡単に言えば、裁判所主催のオークションのこと)により不動産を売却した時の売却代金と、不動産業者や購入希望者に対して普通に任意売却した時の売却代金とを比べると、競売手続での売却代金の方が安くなる傾向にあるからです。具体的には、競売手続での売却代金は、一般的には相場の金額の60%から80%程度になることが多いです。

裁判所による競売手続が行われる代表的なケース

裁判所による競売手続が行われる代表的な場合としては、主に次のようなケースが考えられます。

【競売手続きとなる代表的なケース】

①ある金銭債務を履行しない債務者に対して、債権者が債務者の所有する不動産を差し押さえた場合
EX.借金を返さない債務者に対して、その債務者が持っている土地や建物を、債権者が差し押さえた場合

②ある金銭債務の担保として不動産に抵当権が設定された上で、債務者がその金銭債務の履行を怠ったことで、債権者が抵当権を実行して不動産を差し押さえた場合
EX.家とその土地を住宅ローンで買った際に、その担保として家と土地に抵当権が設定されたが、その後その住宅ローンを支払えなくなってしまったので、抵当権が実行され家と土地が差し押さえられた場合

③複数人が共有する不動産について、分割しようとしたものの、分割方法について決着がつかなかったため、その不動産を競売により売って、その売却代金から売却手数料を差し引いた金額を分配することになった場合

この①〜③のような場合に競売手続が検討されますが、いずれの場合であっても、債権者や債務者は、全員ともこの不動産がより高額で売れてくれることを希望するはずです。
そのため、いよいよ裁判所による競売手続で債務者の不動産を売却せざるを得ない状況になると、債権者から、その不動産について、「競売ではなく、より高く売れそうな任意売却で売らないか?」と提案されることが多々あります。

任意売却において債務者がとるべき対応

では、債務者は、上記の①や②のケースにおいて任意売却の提案をされた場合、どのように応じるのがよいでしょうか。

売却予定の不動産に代わるお金を用意できるかを検討

まず、裁判所による競売手続であろうと、任意売却であろうと、不動産を売ることには変わりありません。そのため、その不動産を本当に売却してしまっていいのかを考えなくてはなりません。
ただ、債権者から任意売却を提案されるケースでは、既に債務の弁済が何度も遅れていて、同時進行で裁判所による競売手続を申し立てていることがほとんどです。ですので、任意売却に応じなければ、そのまま競売手続が行われて不動産は売却されてしまいます。
そこで、不動産の売却を阻止するためには、債権者に対価となるお金を支払って、競売手続を取り下げてもらう必要があります。ちなみに、ここで支払うべき金額については、その不動産の時価額に及ぶ程度は必要でしょう。
そのため、この対価となる金銭を用意できないのであれば、不動産の売却を阻止することは断念するしかありません。

債務者自身の取り分を確保できるかを検討

債務者としては、任意売却に応じると不動産がより高く売れることになり、その分自分の債務が大きく減少します。また、仮に、債務額よりも高額で不動産が売れた場合であれば、債務を完済した後の残りのお金については、債務者自身が受け取ることができます。ですので、債務者としても、基本的には任意売却を希望することで、良い結果につながることが多いです。
もっとも、提案された任意売却を二つ返事で受け入れるべきなのかについては、いったん立ち止まって考える必要があります。
なぜなら、任意売却は、債務者の承諾がなければ実現しないため、債務者は、任意売却に応じる対価として、不動産の売却代金から転居費用や破産費用といった用途を決めたお金を受け取ることができる余地があります。真っ当な用途を決めた上で金銭を要求した場合、その金額が過剰でなければ、債権者がこれに応じてくれることもあります。
そのため、任意売却に応じざるを得ないとしても、売却代金から何かしら自分の取り分を確保する必要があるのであれば、それを任意売却に応じる対価として求めてみるとよいでしょう。